男女の関係って恋愛や結婚だけじゃつまらない
型にはまっていない人間関係って何だろう
男女の友情が成り立つのか。『月極オトコトモダチ』は、この究極の命題に対して、Webマガジン編集者が月極のレンタル男友だちを使って検証記事を書くうちに、恋に落ちてしまう姿を描いたラブコメディ。現役OLでありながら映画監督も務める、穐山茉由の長編デビュー作である。MOOSIC LAB(ムージック・ラボ) 2018で長編部門グランプリに輝き、東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門にも選出された。
果たして、男女の友情は成り立つものなのか。穐山監督にテーマに対する思いやキャスティングについて聞いた。
<穐山茉由 プロフィール>
1982年生まれ。東京都出身。ファッション業界で会社員として働きながら、30代はやりたいことやろうと思い立ち映画美学校で映画制作を学ぶ。監督作『ギャルソンヌ -2つの性を持つ女-』が第11回 田辺・弁慶映画祭2017入選。本作が長編デビュー作品となる。
『月極オトコトモダチ』
大人になると異性の友達ってなかなかできない。男女の間に友情は本当に存在しないの? WEBマガジン編集者の望月那沙(徳永えり)は、あるきっかけで「男女関係にならないスイッチ」を持つと語る柳瀬草太(橋本淳)に出会う。実は、彼は依頼主に雇われた「レンタル友達」だった。那沙はPVの数字の取れるネタとして、編集長に「レンタル男友達」を提案し、柳瀬をレンタルする。一方、那沙のルームメイトである珠希(芦那すみれ)は音楽を通じて柳瀬と距離を縮めていく。
監督:穐山茉由
劇中歌・主題歌:BOMI
出演:徳永えり、橋本淳、芦那すみれ、野崎智子、師岡広明、三森麻美、山田佳奈
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
2018年/日本/カラー/79分
©2019「月極オトコトモダチ」製作委員会
公式サイト:https://tsukigimefriend.com/
2019年6月8日より東京・新宿武蔵野館、UPLINK吉祥寺、イオンシネマ板橋ほかにて全国で順次公開
作品紹介はこちらからご覧ください。
―男女の友情が成り立つかどうかをテーマにした作品ですが、物語を思いついたきっかけをお聞かせください。
男女の友情については以前から気になっていました。ただ、この企画は、人はいつ、どうやって友達になるのだろうという疑問からスタートしました。そして、ちょうどその頃、ネットニュースでレンタル友だちの記事を読んだのです。レンタル友だちと写真を撮ってSNSに投稿し、リア充ぶりをアピールする人がいると書かれていました。面白いなと思って、レンタル友だちを絡めて友だちの話を書くことにしたのですが、友だちの少ない人がただ友だちを雇ってもありきたり。暗い話になりそう。もう少しポップなラブコメにしたいと思って、同性ではなく男女の友情があるのかをレンタル友だちを使って取材するという話にしました。
―作品の中で主人公の後輩が「友情で男女にこだわるのは世代ではないか」と言っていました。しかし、こだわるのは世代ではなく、育った環境の違いではないか、このテーマを思いついた監督は女子校出身ではないかと思ったのですが、いかがでしょうか。
私は中・高・大と女子校で、勤めてからも割と女性が多い職場でした。学生時代は確かに、男性を恋愛対象で括っていたと思います。こちらもそんな風に括られることが多く、そこに疑問を感じずに生きてきたのです。ですから、結婚はゴールではないものの、男女関係の行き着く先だと思っていました。
ところが、大人になって、それだけではないことに気がついたのです。男女の関係って恋愛や結婚だけじゃつまらない。結婚をしない人生もある。型にはまっていない人間関係って何だろう。ここ数年、そんなことを考えるようになりました。作品は自分の実感に基づいているのです。
―友だちを作っていく過程に興味を持ったとのことですが、友だちと知り合いの違いをどう考えますか。
私はすんなり友だちができるタイプではありません。意識し過ぎなのだと思いますが、一度会っただけで友だちと言える人が羨ましいなと思いますね。友だちと知り合いの違いは難しいですし、 “親友はどこから親友なのか”、“友だちにランクをつけていいのか”といったことも考えてしまいます。
ただ、友だちは人と人の距離が近づくことだと思います。それを映像として作りたい。そのためにはいろいろな要素が必要です。今回、自分自身を冷静に棚卸して、人と向き合うことや自分をさらけ出すことを課題にして取り組みました。
―主人公には監督が投影されているのでしょうか。
主人公を追い込む状況を作ろうと思ってシナリオを書いたので、もがいている感じは、自分に近いところがあるかもしれませんね。キャラクターに自分がストンと落ちていると感情が書きやすいですし、実体験の方が細かい描写ができるので、利用する形で書いています。しかし、書いているときはあまり意識していたわけではないので、後から人に言われて「そうだったのかもしれないな」という感じです。
―他の人にも言われたのですね。
作品を観た人だけでなく、徳永さんも撮影中に那沙は私だと思っていたらしくて、ずっと私を見ていたそうです。私の佇まいを参考にしていたと後から聞いて知りました。私にとっては発見でしたね。
―主人公の那沙に徳永えりさんをキャスティングした理由をお聞かせください。
那沙は29歳で、子どもの頃に男の子とサッカーをして活発に遊んでいたという設定だったので、そのくらいの年齢の方を探していました。何人か候補として名前を挙げていったときに、徳永さんを見たら、そのキャラクターが動き出した感じがしたのです。すると、彼女のプロフィール欄に得意なスポーツがサッカーだと書いてありました。偶然というか、巡りあわせを感じて、これはいけるかもしれないと思ったのです。徳永さんはキャリアがあるので出ていただけるか心配でしたが、自主映画に理解があって、今回のキャスティングに繋がりました。
―徳永さんの女優としての印象はいかがですか。
徳永さんは那沙とはまったく違い、とてもしっかりした方です。現場でもお姉さんのように座長として仕切ってくれました。ただ、そのため、彼女が持つ、お姉さん感というか、面倒見の良さがちょっと出てしまう。例えば、野崎智子さんが演じた後輩のユリと話すときにお姉さんぽく話していたので、抑えてもらいました。徳永さんは勘のいい方なので、私がちょっと言ったことを糧に、撮影が始まると瞬く間に、那沙が憑依した感じになっていました。
―柳瀬草太が給水塔に似ているというセリフがありました。橋本淳さんをキャスティングしたのは給水塔に似ていたからでしょうか。
キャスティングはシナリオを書く前でした。単純に男女分け隔てなく、フラットな友だち役が似合いそうだなと思ったのが、橋本さんを選んだ理由です。あのセリフは橋本さんに決まってから書きました。偶然、給水塔に似ていたのです。
実際にお会いしてみたら、すごくジェントルマン。しかも、話が面白い。でも、「この人、腹の底では何を考えているか分からない」という雰囲気がある。そのバランス感覚が柳瀬にぴったりだなと思いました。そして、徳永さんが小柄で、橋本さんは背が高い。2人が並んで立つとかなりアンバランスなので、それもネタにしようかなと考えました。
―那沙と柳瀬は給水塔巡りをしていましたが、監督の趣味でしょうか。
脚本を書いているときに、「男友達とはどこに行くか」を考えていたら、給水塔を回るアイデアが出てきました。最初は釣り堀や雀荘といった女同士では行かないところを考えたのですが、それでは型にはまってしまって、しっくりこない。もっとパーソナルな話にしようと思い、「珠希は興味がないからついてきてくれないけれど、那沙は給水塔が好き」という設定にしました。すると「背の高い、大きなものが好き」ということで、柳瀬と給水塔がリンクしたのです。いろいろな偶然やピンときたものは全部拾い集めて、脚本を作りました。
―柳瀬が旧知覧飛行場給水塔のように斜めに立つシーンが印象に残りました。
私もあのシーンが好きなんです(笑)。橋本さんにやらせて、ニヤニヤしていました。
知覧の給水塔は以前、行ったことがあり、給水塔と同じように斜めになって記念写真を撮ったのです。そのときの記憶で脚本を書きました。斜めの度合いを聞かれたので、「このくらいの傾きです」と調べて伝えました。すんとした顔でやってくれましたね。
―那沙のルームメイト・珠希を演じた芦那すみれさんのハスキーな声と歌が素敵でした。
この作品は「MOOSIC LAB」という、映画監督が音楽アーティストとコラボする映画祭にエントリーしていました。ただ、どこまで音楽を取り入れるか、初めは自分の中ではっきり決めていなかったのです。
その後、芦那さんをキャスティングできたので、彼女にアーティストとして、劇中で存分に歌ってもらうことにしました。彼女あっての脚本です。
―音楽を担当したBOMIさんには、どのようなイメージで曲作りを依頼したのでしょうか。
主に作曲したのはBOMIさんではなく、入江陽さんです。もともと入江さんの音楽観が好きだったので、基本的には自由に作ってもらおうと思っていました。しかし、脚本に音楽ができていく過程も描いていたので、入江さんが「できるだけ作品に寄り添った形で作りたい」と言って、脚本を読んでくれたのです。
また、この作品は入江さんとBOMIさんと3人で音楽打ち合わせや音楽リハなど、音楽関係の準備も並行して行っているのが特徴だったのですが、そこで私の頭の中にある“こういう空気感”みたいなものを言葉ではなく作品で伝え、私の音楽の好みや方向性を共有しました。
―エンドロールで音楽以外のところにも入江陽さんの名前がありました。
珠希もそうですが、柳瀬も音楽をしている設定です。そこに嘘がないように、演奏やDTMと呼ばれる、パソコンで音楽を作っている描写の監修も入江さんにやっていただきました。それもあって、入江さんも現場に来てくれたのです。「せっかくだから」と美術などいろいろなところに参加し、ノリでエキストラとしても出てくれました。
―入江さんはエキストラまでされたのですね。
すこし分かりにくいのですが、珠希と柳瀬が練習しているスタジオの店員さん役で出ています。
―これから作品をご覧になる方にひとことお願いいたします。
男女の友情は成り立つのかという大きなテーマはありますが、人と人との距離、人間関係の話でもあるので、誰もが思うことのある作品だと思います。多くの方が劇場に足を運んでくださるとうれしいです。
(取材・写真:堀木三紀)
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