田口トモロヲさんが演じてきた役を
イメージして書きあげた
ゲキメーションとはアニメーションと漫画(劇画)を融合した表現方法のこと。映画『バイオレンス・ボイジャー』はホラー、アクション、コメディ、クライム、ドラマ、ファンタジー、ミステリー、ロマンスなど、あらゆるジャンルを盛り込み、ゲキメーションで表現した、 史上初の全編ゲキメーション長編映画である。前作『燃える仏像人間』でゲキメーションを取り入れて注目された宇治茶が監督・脚本・編集・キャラクターデザイン・作画・撮影の6役を担当した。3年の歳月を掛けて完成させた宇治茶監督に本作にかける思いを聞いた。
<プロフィール>
宇治茶(UJICHA)
監督・脚本・編集・キャラクターデザイン・撮影
1986年生まれ。京都府宇治市出身。2009年京 都嵯峨芸術大学観光デザイン学科卒業。大学の卒 業制作展にて、自身初めてとなるゲキメーション作品『RETNEPRAC 2』を発表。2010年にはゲキメーション第二作『宇宙妖怪戦争』を制作し、京都 一条妖怪ストリートにて公開。この2作がきっかけとなり2011年より『燃える仏像人間』の制作を開始し、2013年にはゆうばり国際ファンタスティック映画祭を始め、ドイツ、韓国、オランダなど、国内外 数々の映画祭に招待された後、全国公開される。さらに2013年度第17回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門にて優秀賞を受賞。
『バイオレンス・ボイジャー』
日本の山奥の村に住むアメリカ人少年のボビーは、数少ない友人のあっくんと飼い猫のデレクを連れて、村はずれの山に遊びに出かけた。その途中、娯楽施設“バイオレンス・ボイジャー”と書かれた看板を発見した彼らは、その看板に惹かれて施設を目指すことに。施設のアトラクションを堪能し、遊び疲れて休息していたところ、ボビーたちはボロボロの服を着た少女・時子と出会う。彼女は数日前からここを出られずにいると言い、行動を共にすることに。彼らはさらに、先客として迷い込んでいた村の子どもたちとも出会うが、謎の白いロボットによる襲撃を受け、子供たちたちは次々と捕獲されて行ってしまう。時子の救出とバイオレンス・ボイジャーの謎を解き明かすため、ボビーは立ち上がるのだった…!
監督・脚本・編集・キャラクターデザイン・作画・撮影:宇治茶
声の出演:ボビー:悠木碧、ジョージ:田中直樹、よし子:藤田咲、あっくん:高橋茂雄、たかあき:小野大輔、古池:田口トモロヲ、ナレーション:松本人志
配給:よしもとクリエイティブ・エージェンシー
©︎吉本興業
公式サイト:http://violencevoyager.com/
2019年5月24日(金)からシネ・リーブル池袋ほかで全国順次公開
―監督がゲキメーションと出会ったきっかけを教えてください。
大学の卒業制作で映像作品を撮ろうと思い、参考になるものをネットで探していたところ、1979年代に放送されていた楳図かずおさん原作のゲキメーションで作られたテレビアニメ『妖怪伝 猫目小僧』を見つけました。この手法なら自分が描いていた絵を活かした作品作りができるのではないかと思ったのです。
さらに、電気グルーヴが2008年に発表した「モノノケダンス」PVでもゲキメーションが使われていたことにも影響を受け、2009年の卒業制作で短編ゲキメーションを作って発表しました。
―ゲキメーションのどんなところが自分に向いていると感じましたか。
普通のアニメを違い、ペープサートのように描かれた人物を直接、動かすので、動かすために何枚も描く必要がありません。かなり描き込んだ絵を使えるところがいちばん合っていると思いました。
まず15分くらいの短編、その後に10分の短編を作り、2011年頃から『燃える仏像人間』を作り始めました。
―本作はペープサートから液体的なものが飛び出たり、流れ出たりするのでびっくりしました。初めての頃と比べて、技術が進歩しているのでしょうか。
ゲキメーションを教えている人はいないので、『妖怪伝 猫目小僧』を見て、独学で研究しています。やっていることはそんなに変わっていませんが、燃える規模が大きくなり、爆発シーンを入れるなど、少しずつ進歩している部分はあるかもしれません。
流れ出る液体ですが、スライムみたいなもの、片栗粉を混ぜたものなどいろいろやってみて、自分の中でいい塩梅を見つけて合成した、何とも言えない液体です。口の部分に裏からチューブを繋ぎ、その先に注射器をつけてあります。実際の原画は小さいので、片手で原画を押さえつつ、注射器を持って、ぴゅっと出しました。
―現場のサイズ感はどのくらいなのでしょうか。
机の上で人形を作り、撮影をして、編集まで完結しています。人形は10㎝もないくらい。これに棒をつけたり、クリップで挟んだり、手で直接持ったりして、カメラを片手に持ちつつ、人形を動かしています。
―日本の山間部が舞台ですが、主人公はアメリカ人の少年です。短パンをはいている辺りに時代を感じますが、なぜ、そのような設定にされたのでしょうか。
昔見た『グーニーズ』や『E.T.』のように、金髪の男の子が不思議な事態に巻き込まれていく話が作りたかったのです。そして、アメリカっぽい話を自分が知っている日本で作ったらどうなるのかなというのが発想の原点です。
ホラー映画が好きなので、そういった要素も作品の中に入っていると思いますが、『ウエストワールド』でロボットが襲ってくる、『ジュラシック・パーク』で恐竜に襲われる感じが元になっています。それを自分が住んでいたところの近所にある山を舞台にしてみました。
―監督ご自身を投影した登場人物はいますか。
主人公のボビーにはやはり投影されていると思いますが、それだけでなく、悪役の古池にもかなり強く自分が出ています。
―キャラクターはあっくん兄弟のように額が思いっきり出ているか、しっかり髪で覆われているかのどちらかの印象を受けました。それは監督の絵の特徴なのでしょうか。
あっくんの額はキャラクターの特徴付けで、深い意味はありません。最初に子どもたちをいろいろ描いたのですが、額にしわのある子どもが出てきたら面白いかなと思って描きました。
あまり意識はしていませんが、このところ毛が抜けることが増え、僕自身、ちょっと不安を感じているので、その不安が古池の額に出ているのではないでしょうか。禿げるのが怖いのかもしれませんね(笑)。
―作品の内容が実写ではできないくらい凄惨です。ゲキメーションだから描けると意識していましたか。
言われてみれば、そうですね。これを実写でやろうとしたら、制作費がものすごくかかるけれど、ゲキメーションなら机の上だけで作れるからいいなと思って作ったので、内容の凄惨さまでは意識していませんでした。
―ざっくり描くことで、細かな部分を想像します。これがかえって怖さを増幅しました。
普通のアニメより動きもぎこちないですからね
―作品に物理的な奥行きを感じました。
それは前作からかなり考えていました。ずっとミラーレスカメラを使っていますが、センサーが大きいカメラを使うとぼけを活かした表現ができます。手前をぼかしたり、背景をぼかしたり、また光の感じで影を調整して、奥行きを作ることを意識していました。
―すべてを監督お一人でなさっていますが、1人で制作した事での苦労はありましたか。
前作では幻覚が見えるくらい、追い込まれました。毎日のように金縛りにあった時期もありましたが、今回はそのようなことはあまり起こりませんでした。笑
僕は夜があまり好きではないので、早寝早起きして、昼間は家に籠り、たまに散歩で外に出るくらい。できる限りの作業を明るいうちにして、乗り越えました。
―1人だったからよかったこともありましたか。
脚本の段階でもそうですが、周りからの干渉がなく、1人で気楽に、思いのまま自由に作ることができました。だからこそ、凄惨な部分も残っているのだと思います。周りからの制御があれば、もう少しソフトな作品になっていたかもしれませんね。机の上で、ただただ人形遊びしているようなことを3年続けていました。
―本作の声の出演は豪華ですね。キャスティングは監督がされたのでしょうか。
僕は声優さんに詳しくなかったので、プロデューサーの安斎レオさんにお任せしたところ、ボビーは悠木碧さんがいいのではないかと提案がありました。そこで、僕も悠木碧さんのアニメを見て、声を聞いて、すごくいいなと思い、やっていただきました。ばっちりはまってよかったなと思っています。「ココリコ」の田中直樹さん、「サバンナ」の高橋茂雄さんは前から演技がお上手だと思っていたので、ぜひ出てほしいと思ってお願いしたところ、OKをいただきました。
田口トモロヲさんにお願いした古池というキャラクターは田口さんがこれまで演じられてきた役を基にしている部分があったので、ぴったりだったのだと思います。
―古池の役は田口トモロヲさんで当て書きされたのでしょうか。
古池は田口さんが演じてきたキャラクターを基に作っていますが、田口さんご本人に出ていただけるとは考えてもみなかったので、当て書きではありません。安斎さんから田口さんはどうだろうかと提案があり、田口さんがオファーを受けてくださったので、本当にうれしかったです。
―アフレコの時に田口さんと話をしましたか。
田口さんは楳図かずおさんの「神の左手悪魔の右手」を実写化した作品に悪役で出演されていましたので、「あのイメージでやってほしい」とお伝えしました。そして、田口さんがみうらじゅんさんとやっていた「ブロンソンズ」が好きだったので、その本にサインをいただきました。
―ボビーのその後が気になります。続編の予定はありますか。
『燃える仏像人間』もそうですが、僕の中では全部終わったと思っています。ここから先はご覧になった方がみんなで話してもらえるといいなと思っています。すでに次の作品を考えていますが、具体的にはまだ動き出せていない状態です。
―これから作品をご覧になる方にひとことお願いします。
前作の『燃える仏像人間』をご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、今回はもっと多くの方に見てもらえるよう、エンタメ作品を目指して作りました。PG12になっていますが、老若男女問わず、みなさんに見ていただければと思っています。万が一、僕の世界観が気に入らなくても、小野大輔さんに素晴らしい演技をしていただき、松本人志さんにはナレーションをしていただいていますので、そういった声優さんの声を聞いていただくだけでも価値があると思います。よろしくお願いいたします。
(取材・写真:堀木三紀)
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