『存在のない子供たち』 ナディーン・ラバキ―監督インタビュー

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2007年、ベイルートの美容室を舞台に女性たちの赤裸々な姿を描いた『キャラメル』で鮮烈な監督デビューを果たしたナディーン・ラバキー。『キャラメル』で音楽を担当したハーレド・ムザンナルと映画完成後に結婚。『キャラメル』の日本公開の折には、第一子ご懐妊で来日できず、今回初来日となった。 
『存在のない子供たち』では音楽だけでなくプロデューサーも引き受けた夫のハーレド・ムザンナルに、二人の子供たち、そして両親も一緒に来日。インタビューには、常に夫も同席されると聞いていたが、来日早々体調を崩され、ナディーン・ラバキー監督お一人で臨まれた。


ナディーン・ラバキ― Nadine Labaki
1974年2月18日レバノン、ベイルート生まれ、内戦の真っただ中に育つ。
1997年、ベイルート・サンジョセフ大学にてオーディオ・ビジュアル学で学位を取得。2005年、カンヌ国際映画祭の主催する「レジダンス」制度に参加。ベイルートを舞台にした初めての長編映画『キャラメル』の脚本を執筆。自身で監督・主演も果たした。2007年、カンヌ国際映画祭監督週間で初上映され、ユース審査員賞受賞。サンセバスチャン映画祭では、観客賞受賞。『キャラメル』は、60か国以上の国で上映された。2008年、フランス文化・通信省より、芸術文化勲章を授与される。
ナディーンの長編映画第二段『Where Do We Go Now?(英題)』でも、脚本/監督/出演をこなした。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で、エキュメニカル審査員スペシャル・メンション受賞。トロント国際映画祭観客賞、サンセバスチャン映画祭観客賞受賞。レバノンでの興行成績がアラブ映画として歴代一位。2014年、都市をテーマにしたオムニバス映画シリーズ『リオ、アイラブユー』を監督。
役者としては、フランスのフレッド・カヴァイエ監督『友よ、さらばと言おう』(2014)、グザヴィエ・ボーヴォワ監督『チャップリンからの贈り物』(2014)、レバノン出身の監督ジョージ・ハシェムの『Stray Bullet(原題)』(2007)、モロッコ出身の監督レイラ・マラクシの『Rock the Casbah(原題)』(2013)などに出演。本作ではゼインの弁護士役として出演している。 (公式サイトより抜粋)



存在のない子供たち   原題:Capharnaum
監督・脚本: ナディーン・ラバキー
プロデューサー・音楽:ハーレド・ムザンナル
出演: ナディーン・ラバキー、ゼイン・アル=ラフィーア、ヨルダノス・シフェラウ、ボルワティフ・トレジャー・バンコレ

2018年/レバノン・フランス/カラー/アラビア語/125分/シネマスコープ/5.1ch/PG12
配給: キノフィルムズ

*ストーリー*
推定12歳の少年ゼイン。法廷で自分を産んだ罪で両親を訴える。
両親が出生届けを出さなかった為に学校にも行けず、路上で水タンクを運んだり、ティッシュを売って日銭を稼ぐゼイン。唯一の心の支えだった妹のサハルが11歳で無理やり結婚させられてしまい、怒りと悲しみから家を飛び出してしまう。行く当てのないゼインを助けてくれたのは、赤ちゃんと二人暮らしのエチオピア移民のラヒル。彼女も不法滞在で、いつも不安を抱えていた・・・

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(C)2018MoozFilms/ (C) Fares Sokhon
公式サイト:http://sonzai-movie.jp/
★2019年7月20日(土)よりシネスイッチ銀座、ヒューマントラスト渋谷、新宿武蔵野館ほか全国公開


◎ナディーン・ラバキー インタビュー
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― ゼインの家族が、パレスチナやシリア難民でない、レバノンの家族であることにびっくりしました。逆にどこの国にでもありえる話と捉えることができました。
レバノンの人たちは、どんな反応でしたか?

監督:もちろんリアクションは様々でした。自国で起きているのを否定する方もたくさんいました。レバノンの人たちはとても誇り高いので、レバノン人の家族にそのようなカオスがあることを受け入れがたく思う人が多いようです。一方で、ポジティブな意味でショックを受けて、自分が何かしなければ、行動に移さなければと思ってくださる方もいました。この映画が変化に繋がればいいと思っていましたので、そのような反応は嬉しかったです。

―3年間にわたる長時間のリサーチが必要だったのは?

監督:
人々に納得してもらうためには、何よりリアルであることが重要でした。私が想像してこういうことがあったから苦しんでいると描くのは簡単だったかもしれません。そうではなくて、真実の話であることが重要でした。実際にどんなことが起きているのかを知るのに時間がかかりました。車を止めて物を売ったり、路上でガムを売ったり、水タンクを運んだりしている子が、ほんとうに不幸な子供なのかをちゃんと知りたいと思いました。普段閉じられている家の中も覗いて、どんな生活をしていて、どんな苦しみを経験しているのかにも踏み込まなければと思いました。子供たちの状態を理解するには、家族やコミュニティの人々がどう暮らしているかも知る必要がありました。そこでどういうことが起きているのかをリアルに描かなければと思いました。虚構の物語を綴る権利は私にはありません。彼らの苦しみを映画を通じて伝えるには、私はただただ代弁者でなければと思いました。ですので、役者さんではなく、リアルな人々に出演していただくことも必要でした。


― 物語の境遇に似ているリアルな人たちを使う魅力や難しさ、また、想像していた以上に得られたことはありましたか? 

監督:
 演技をしたことのない人たちなので、普段の撮影と違うプロセスが必要でした。普通は台詞を含めてキャラクターについて準備段階で頭に入れてから演じるのですが、子供たちにはそれは無理です。私たちが彼らの個性やリズムに合わせていくという方法を取らなければなりませんでした。環境も緊張しないようにする必要がありました。カメラも目立たないようにして、照明も使わないようにしました。彼らのままでいられる場所を作ることが重要でした。彼らの物語や経験をそのまま作品にもたらしてほしいと思っていました。決して演技をしてほしくなかった。私がフィルムメーカーとして作った物語ではあるけれど、そこに彼らの苦しみを掘り下げてもらって持ってきてもらうようにしました。彼らのリアリティを私のフィクションに寄せていくようにしました。そのような撮り方をしましたので、撮影には6ヶ月かかかりました。自然光で、小道具も、例えばマットレスもそこにあるものを使いました。壁の落書きも、子供たちの絵も実際にアパートに住んでいる子が描いたものをそのまま使いました。通常の撮影のように、バンでやってきて、ブロックして皆を黙らせて、アクション!というやり方ではなく、人止めもしないで、通りを行く自動車のクラクションなどもそのまま使いました。市場でも、カメラを回している途中にお客が来て値切ったりしていました。私たちが撮影していることに気づかれないほどでした。我々のミッションは、子供たちを可視化するために、我々を見えなくして、彼らに光を当てることでした。撮っていくうちに監督の望むものに近づけていくというやり方でした。
彼ら自身、自分の経験を語りたい。聞いてくれる人がいることが彼らに翼を与えました。自分たちの思いを世界にどう伝えるかをすごく考えてくれて、とてもいいコラボレーションになりました。

― 出演してもらった子供たちに最初に会ったときの印象は?

監督:
出演してもらった子供たちだけでなく、リサーチ中に会ったのは、とてもとても耐えがたい状況にある子供たちばかりでした。あまりにも虐待されて、完全に麻痺して、目もうつろで人ではないようでした。目の前におもちゃを置いても遊ぼうとしないし、歌も踊りもしようとしない。子供であることを奪われてしまったようで、つらいものがありました。
私が調査で会ったのは数百人ですが、世界中には、10億人位、そういう耐え難い状況に置かれている子供たちがいると言われています。麻痺して何も感じなくなっているような子供たちが大きくなる数年後には、この世界はどうなるのだろうと考えると、私たちは目覚めなければいけません。問題にちゃんと向き合って解決していかなければならないと思います。

― 弁護士役で出演されていて、その時に泣きながら怒ったシーンが、観ている私たちの心情を表わしているように思いました。一定の層は、子供たちのそのような状況を他人事として親を非難するだけだと思ったからです。
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(C)2018MoozFilms/ (C) Fares Sokhon
監督:まさのその通りです。あの場面では居心地が悪くなると思います。社会の姿勢がそういうものだと思います。私も実は彼らのことを決めつけてしまうようなことが多かったのです。一日ほったらかされている子供たち、寒さに震えて青ざめている子供たち、水がなくて粉ミルクをそのまま口にしているような子供たち。撮影中も毎日子供たちが死んでいきました。バルコニーから投げてしまわれるような子供たち。存在を誰にも知られないうちに死んでいく子供たち。どんな親なんだろうと考えてしまいました。子供たちと一緒に親が帰ってくるのを待っていて、なぜ子供たちを置いていくのかと怒りの感情もありました。実際に帰ってきて話してみると、私には彼らを裁く権利はないと気づきました。家を追い出されたことも、はみだし者のような扱われ方をしたことも、11歳で結婚しなければいけないことも、私は経験していないからです。
あのシーンが重要だったのは、私と同じように観客に居心地の悪い思いをさせるためでした。自分は関係ないと思うのは責任逃れです。
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(C)2018MoozFilms/ (C) Fares Sokhon
― 息子のワリードさんは、主人公のゼインに近い歳だと思います。撮影中には現場にいらしたのでしょうか? また完成した映画を観てどのように思われたでしょう?

監督:撮影を始めた頃、息子はゼインより年下だったのですが、ゼインは12歳なのに、7歳位にしか見えなかったので、外見上は息子の方が年上に見える位でした。
息子はゼインとすごく仲良くなって大好きだったので、映画を観てゼインのおかれている状況にショックだったようです。息子が一番傷ついたのではないかと思います。
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(C)2018MoozFilms/ (C) Fares Sokhon
撮影していくうちにゼインも私の息子になりました。撮影の前に娘を産んだばかりだったので、赤ちゃんは私の娘と同じ位。こちらも私の娘のようで、キャラクターがかぶりました。私自身、母親でもあることを強く意識しました。

― ハーレド・ムザンナルさんと、『キャラメル』製作後にご結婚され、本作はまさにお二人で作り上げた3人目の子供ですね。ハーレドさんの存在が特に支えになったのはどんなところですか?

監督:この映画を作るにあたってハーレドは、ほんとうに支えになってくれました。とても有能な音楽家で、たくさんの映画で音楽を担当しています。今回は初めてプロデューサーに挑んでくれました。それは私が自由に映画を作れるようにという思いからです。彼はクレイジーなアーティスト。普通なら、こんな大きなリスクは負わないでしょう。出演者の中には国外退去になるかもしれない人もいました。ほかにこんなことを引き受けてくれるプロデューサーはいなかったと思います。ほんとに彼はなんでもやってくれました。編集も2年かけました。私に必要なものは全て用意してくれました。ハーレドがいなかったら、この映画は作れませんでした。

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7月5日に開催されたユニセフ・シアター・シリーズ『存在のない子供たち』特別試写会 ナディーン・ラバキー監督トークイベントには、パートナーのハーレド・ムザンナルさんや、二人の子どもたちも一緒に登壇しました。
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トークの模様はこちらでどうぞ!





『五億円のじんせい』文晟豪監督、主演・望月歩インタビュー

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描いたのは、人生を振り返ったときにきっと思い出す濃密なひと夏の成長

GYAOとアミューズがこれからの時代を担う新たな才能の発掘を目指して共同開催したプロジェクト「NEW CINEMA PROJECT」。文晟豪(ムン・ソンホ)監督が脚本家・蛭田直美と一緒に応募し、約400本の中から見事グランプリに選ばれた。その企画が映画『五億円のじんせい』として、7月20日(土)に公開される。
主人公は幼い頃、善意の募金(五億円)によって心臓移植手術を受けた高校生の高月望来(望月歩)。善意の期待に応えて生きる人生が負担になり、SNSで自殺を宣言したところ、見知らぬアカウントから「死ぬなら五億円返してから死ね」というメッセージが届く。望来は家を飛び出すのだが、そこでさまざまな人と出会い、事件に巻き込まれながらも成長する姿を描く。
公開を前に文晟豪監督と本作が初主演となる望月歩に応募のきっかけや現場でのエピソード、見どころなどを聞いた。

<プロフィール>
文晟豪監督
広島県出身。高校を卒業後、韓国へ留学。弘益大学校視覚デザイン学科で映像を学ぶ。その後、日本へ戻り、コマーシャルやイベント映像などの映像制作に従事する傍ら、自主制作短編映画にも取り組む。2013年「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」にて製作実地研修作家に選出され、『ミチずレ』を監督。

望月歩
2000年9月28日生まれ。14年のWOWOWドラマ「埋もれる」で本格デビューし、15年の映画「ソロモンの偽証」で、1万人が参加した大規模オーディションの結果、転落死する中学生・柏木卓也役に抜てきされ、その怪演で一躍注目を浴びる。その後、NHK「461個のありがとう 愛情弁当が育んだ父と子の絆」(’15)、舞台「真田十勇士」(’16)、TBS「母になる」(’17)、「アンナチュラル」(’18)など話題作に次々と出演。「3年A組ー今から皆さんは、人質ですー」での瀬尾役では多くの視聴者の記憶に残る圧倒的な存在感を示した。映画「五億円のじんせい」が初主演映画である。

―本作はNEW CINEMA PROJECTで第一回グランプリに選ばれたことで映画化されました。応募のきっかけについてお聞かせください。

監督:企画の応募が原稿用紙1枚でも大丈夫だったので、気軽にできるなと思い、脚本家の蛭田さんを誘って考えました。
心臓移植を受けた人はその後、どうしているのだろう。情報が表に出ることがないけれど、みんな元気にやっているのだろか。窮屈に生きていたりしないだろうか。こんな風に話が発展していき、面白くなりそうだなと思ったのです。最初は男の子にするか、女の子にするかはフラットな状態でしたが、応募する頃には男の子と決めていました。

―『五億円のじんせい』というタイトルはインパクトがありますね。

監督:仮でつけていたタイトルがそのままタイトルになるとは思っていませんでした。

―最初からひらがなで「じんせい」だったのでしょうか。

監督:応募するときは漢字で「人生」と書いていたのですが、脚本をブラッシュアップしていく中でひらがなに変わりました。主人公の望来(みらい)くんの高校生らしい危うさ、浅はかさも形にできるし、漢字より軽く、重くなり過ぎない気がしたのです。

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―主人公の望来を演じたのは望月歩さんです。彼をキャスティングした決め手を教えてください。

監督:オーディションのとき、ドンという感じで、とにかくすごくよかったのです。“決めた”というより“決めさせられた”感じですね(笑)。

―望月歩さんにとっては初主演作品です。主演が決まったときのお気持ちをお聞かせください。

望月:決まったときは「おっし! 決まった!」と喜びが大きくて、主演のプレッシャーは感じませんでした。決まってから「君次第でどうにでもなるんだよ~」と親やマネージャーさんに何度も言われて、ようやく「ああ! 主演なんだ」という意識やプレッシャーを感じ始めました。そのお蔭で準備をちゃんとできた気がします。

―プレッシャーは辛くなかったのでしょうか。

望月:辛いというよりも、いつも以上にちゃんとやらなきゃという感じでしたね。

―監督の印象はいかがでしたか。

望月:オーディションで初めてお目にかかったのですが、喋る前からニヤニヤしているように見えて、最初は監督と分かりませんでした。

監督:にやにやしていたのは、望月さんのときだけです。資料を見たら、プロフィールに出演作品として『ソロモンの偽証』が載っていました。柏木役だとわかってびっくりしました。「めっちゃでかくなったね〜」とまさに親戚のおじさん状態。そのリアクションが表情に現れていたのだと思います。

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―望来の役作りについて、監督と事前にどんな話をしましたか。

望月:監督とはいろいろなことを話しました。プライベートなことの方が多かったのですが、それでもこのシーンはこういう考えで、こういうことを思っていてほしいなど、いろいろなことをうかがい、監督の考え方が僕の中に入ってきた気がします。
こういう役作りは初めてでした。クランクイン前の作っていく段階でこれができたのはありがたかったです。

―役者さんとプライベートについても話をして役を作っていくのは、監督のいつものやり方なのでしょうか。

監督:基本的に役者さんとコミュニケーションを取る場合は、“役のこと”よりも“お互いのパーソナルなところ”から入っていきます。ただ、今回は望月さんがまだ高校生ということもあって、主演の負担を取り除いてあげなきゃと考えていました。
ところが、彼はプレッシャーを感じていることを表に出さないのです。自分が高校生の頃と比べて立派だなぁと感心していました。僕は高校生の頃、いったい何をやっていたのだろうと思ってしまいましたね。もちろん、それで失っているものもあるのでしょうけれど、素晴らしい取り組み方をしてくれた望月さんに感謝しています。

―望来は闇バイトも含めて、さまざまなアルバイトを経験します。建設現場でセメント袋を運ぶのは本当に大変そうでした。実際に体験した感想をお聞かせください。

望月:地面の砂がぬかるんでいたので、最初は本当によたっとなってしまいました。周りの人は普通に運んでいたので、すごいなと思いました。

監督:自分はあそこでクスクスしていました(笑)。

望月:本当に大変でした。それなのに、監督はうんともすんとも言わないんです。

監督:少し経ってから「貸してみろ。えっ、これ、すごい重いね」って感じでしたね

―監督はセメント袋を載せて運ぶ大変さをご存知なかったのですね。望月さん、最後は慣れましたか。

望月:セメント袋1つは運べましたが、さすがに3つは難しかったです。勢いをつけてがあーっと行くしかなかったですね。
でも、引越し屋さんの仕事は楽しかったです。担ぐ荷物も段ボール箱に中身が少し入っているくらいでした。

―肩をがっと入れて荷物を担ぐところ、様になっていましたね。

望月:ありがとうございます。そんなに肩を入れるんだって思いました。

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©2019 『五億円のじんせい』NEW CINEMA PROJECT

―工場でパートの仕事もしていました。

監督:あそこは具体的に決まっていなかったのですが、いろいろな仕事を点描でやるというのは絶対に必要でした。そこで、それまでの仕事と差別化できるものをしてもらいました。

―パートのおばちゃんに可愛がられていましたね。望来はアダルトなバイトを斡旋してくれた丹波から「優しいヤツと優しくないヤツがいるんじゃない。優しくしてやりたくなるヤツとそうじゃないヤツがいる。優しくされて生き残るタイプだよ。おめでとう」と言われていましたが、このセリフを思い出しました

監督:生きているうちにもらえる、暴力的なまでに素晴らしい言葉は蛭田さんの真骨頂ですね。

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©2019 『五億円のじんせい』NEW CINEMA PROJECT

―工場パートでお昼休憩のとき、おばちゃん達のお弁当のおかずのお裾分け攻撃がすさまじかったですね。まさに優しくしてやりたくなるヤツって感じでした。

監督:すごいですよね、みなさん。直箸ですからね。

―アドリブだったのでしょうか。

監督:お弁当のおかずを分けてあげてくださいと言ったら、どんどん載せていました。

望月:おかずの量がものすごくなりましたよね

監督:いちばん安く買えるのり弁におかずが載っていく。それは愛情が載っていくこと。つい、したくなったんでしょうね。

―おばちゃん達が本気で望来くんにおかずをあげたくなっているのが、スクリーンから伝わってきました。

監督:「おかずを分けてあげてください」と言われて載せたというより、望月さんの雰囲気がそうさせたような気がします。彼女達、ちょっと悪ノリしているくらいでしたよね。

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©2019 『五億円のじんせい』NEW CINEMA PROJECT

―確かに、望月さんご本人も優しくしたくなるタイプですね。インタビューしている今、それを感じます。望月さん自身はそういうことを感じたことありますか。

望月:同世代の友だちもご飯を奢ってくれる。それに近い部分があるのかなと思います。

―監督はオーディションのとき、望月さんが望来くん体質であることを察していましたか。

監督:そうかもしれません。きっと、その雰囲気がオーディションでもこぼれていたのでしょうね。現場でも構いたくなりました。

―ところで、作品のテーマはセンシティブなものを含んでいますね。

監督:オリジナルの企画なので、その懸念は最初からありました。NEW CINEMA PROJECTの二次審査でも、「心臓移植の当事者の方たちをどう考えていますか」と聞かれました。
しかし、心臓移植をしなくてはいけない人たちに対して「募金をやめよう」という話に持っていきたいわけではありません。心臓移植を受けた男の子が、その後の人生で窮屈な思いをしてはいないかということを描きたい。ですから、できるだけ失礼のないようにしなくてはと思っていました。
それでも当事者の中にはネガティブなことを感じる人がいるかもしれません。この件は「これだけ考えたら失礼がない」ということはなく、今後の自分の発言や生き方を通して、ずっと伝えていかなければと思ってやっているつもりです。また、この思いは映画のスタッフ全員で共有しています。

―望月さんはいかがですか。

望月:脚本を読んだとき、悪い方向に書いている作品ではないことは十分理解できました。僕の役がその立場だったので、僕がちゃんとやればそこまで悪いことにはならないだろうと思って、病気のことも募金のこともすごくいろいろ調べて、そこは丁寧に演じようと意識していました。

監督:望月さんは心臓移植を受けた子や受けるかもしれない子たちに希望を与えてくれることを体現してくれたと自信を持っています。望月さんは最大限のことをやってくれました。
ただ、望月さんががんばり、自分がテーマの扱いに配慮をしたので大丈夫とは思っていません。僕は立場が違う。それはずっと考えてやっていかないといけないと思っています。

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©2019 『五億円のじんせい』NEW CINEMA PROJECT

―望月さんは今後、どんな役をやってみたいですか。

望月:先生をやりたいです。ドラマ「3年A組 ―今から皆さんは、人質です―」をやってから先生に憧れを抱くようになりました。“1対多”の向こう側(先生側)に立ってみたいと今すごく強く感じています。とても先のことになるとは思いますが、いつかはやってみたいです。

監督:Let's think(笑)

―監督は今後、どんな作品を撮りたいと考えていますか。

監督:監督は作品を通して社会と触れ合うしかないので、触れ合う回数を増やさないと不適合者のまま終わってしまいます。オリジナル、原作ものにこだわることなく作品を通して世の中に貢献できるもの、いろんな立場の人をポジティブにできるものを作っていけたらと思っています。

―これから作品をご覧になる方に、ここをぜひ見てほしいという見どころを教えてください。

監督:望月さんを見てほしい。望月さんは出ずっぱりなので、外して見ることはできないのですけれどね(笑)。
望来くんは移植手術など、これまでいろんなことがあったのですが、人生を振り返ったときにかなりの割合で、この映画で描かれている「死ぬために旅に出た夏」を思い出すのではないかと思います。その濃密な瞬間である望来くんの成長を見てもらえたらと思います。

―望来ちゃんと呼んでいたおかあさんがちゃん付けで呼ばなくなりますよね。

監督:僕もそれを気にしていました。立派になった望来が最終的にほしかったので、自分は望来ちゃんと言わず、ずっと望来くんと言っていたつもりです。

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©2019 『五億円のじんせい』NEW CINEMA PROJECT

―おかあさんの成長でもありますね。

監督:はい、止まっていた2人が動き出す映画です。

望月:監督がいったことの付け加えになってしまいますが、何をもって成長したのかを見てほしい。この人と会って、こういう経験をしたから、こういう言葉を受けたから、こういう成長をした。望来の感情を追いかけながら見ていただけたらうれしいです。

(取材:堀木三紀、白石映子 文:堀木三紀 写真:白石映子)


『五億円のじんせい』
監督:文晟豪(ムン・ソンホ) 
脚本:蛭田直美
出演:望月歩(「ソロモンの偽証」「3年A組-今から皆さんは、人質です-」)
山田杏奈 森岡龍 松尾諭 芦那すみれ 吉岡睦雄 兵頭功海 小林ひかり
水澤紳吾 諏訪太朗 江本純子 坂口涼太郎 / 平田満 西田尚美
主題歌:「みらい」ZAO
撮影:田島茂 
照明:山田和弥 
録音:齋藤泰陽 
音楽:谷口尚久
配給:NEW CINEMA PROJECT
助成: 文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会
2019年/日本/112分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル 
©2019 『五億円のじんせい』NEW CINEMA PROJECT
公式サイト:https://gyao.yahoo.co.jp/special/5oku/

『ザ・ファブル』江口カン監督インタビュー

アクションシーンにワイヤーは使わず
人間がギリギリできるラインにリアリティを設定した


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裏社会で「ファブル」の名で恐れられる天才的な殺し屋が1年間休業し、大阪で一般人として、普通の生活を送る。この普通でないミッションを殺し屋が真面目に挑む様子をコミカルに描いた南勝久の人気コミック「ザ・ファブル」(講談社「ヤングマガジン」連載)が実写化された。
主人公ファブルを演じるのは岡田准一。複数の格闘技でインストラクター資格を持つ岡田にはぴったりの役どころである。相棒のヨウコに木村文乃、ボスを佐藤浩市が演じるほか、山本美月、福士蒼汰、柳楽優弥、向井理、佐藤二朗、安田顕、藤森慎吾、宮川大輔といった豪華キャストが脇を支える。
本作のメガホンをとったのは江口カン監督。カンヌ国際広告祭では金賞と2度の銅賞受賞を成し遂げた稀代の映像ディレクターで、劇場映画作品は『ガチ星』『めんたいぴりり』に続き、3作目となる。
公開を前に、江口カン監督に作品への思いや出演者についてのエピソードなどを聞いた。

<プロフィール>
江口カン
福岡出身、KOO-KI所属。
ドラクエ(出演:のん、北大路欣也)、スニッカーズなど多数のCMを演出。
Webムービーでは、「Baseball Party」(トヨタ)や「COME ON! 関門!」(北九州市・下関市)などのヒット作品を手掛け、国内外にて異例の視聴数を獲得。
07-09年、カンヌ国際広告祭で三年連続受賞。
13年、東京2020五輪招致PR映像「Tomorrow begins」のクリエイティブディレクションを務める。
ドラマ「めんたいぴりり」が日本民間放送連盟賞・優秀賞(二年連続)、ギャラクシー賞などを受賞。
劇場映画作品は、デビュー作「ガチ星」(2018)が「映画芸術」誌ベスト10にランクイン、その後「めんたいぴりり」(2019)、「ザ・ファブル」(2019)と続いている。


『ザ・ファブル』

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出演:岡田准一、木村文乃、山本美月、福士蒼汰、柳楽優弥、向井理、木村了、井之脇海、藤森慎吾(オリエンタルラジオ)、宮川大輔、佐藤二朗、光石研、安田顕、佐藤浩市
監督:江口カン
原作:南勝久「ザ・ファブル」(講談社「ヤングマガジン」連載)
脚本:渡辺雄介
撮影:田中一成
美術:小泉博康
照明:三重野聖一郎
音楽:グランドファンク
主題歌:レディー・ガガ「ボーン・ディス・ウェイ」(ユニバーサル ミュージック)
配給:松竹
©2019「ザ・ファブル」製作委員会
公式サイト:http://the-fable-movie.jp/
2019年6月21日(金)全国公開


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―本作の監督をオファーされたときのお気持ちをお聞かせください。

まず、「うれしい」のひとことですね。自分の中のモチベーションが上がりました。
オファーを受けたときに感じたことと、今、改めて思うことは違うかもしれませんが、僕は一人一人のキャラクターを大事にやりたいと思っています。その結果、尺がなかなか縮まらないのですが(笑)。
今回は殺し屋たちの話ですから、各キャラクターを際立たせた上で、動きのある作品にする。僕がこの映画を撮る意味はそこにあると思いました。

―原作はご存知でしたか。

最初に呼ばれたときは、まだタイトルは伏せられていました。“最近人気のある殺し屋のマンガ”とだけいわれて、「そういうマンガ、知っている?」と何人もの人に聞いたら、みんなが口を揃えて「ザ・ファブルじゃないか」と。

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―原作を読んでどう思いましたか。

面白かったですね。読んで、ますますモチベーションが上がりました。

―コミック原作の映画は初めてですね。映画化する上でこだわったことはありましたか。

マンガはマンガ家が長い時間をかけて描いた結果です。それをお借りするわけですから、作品の魅力のコアな部分を外さないようにしたい。
「ザ・ファブル」の場合、妙な間というか、テンポの悪さも面白さの1つ。しかし、これを映画でそのままやってしまうとダレる。マンガは読む人それぞれの好きなペース、リズムで頭の中に入っていきますが、映画は進行するスピードという時間軸をこちらで作るので、そういうわけにはいかないのです。原作にある間も作りながら、飽きさせないように工夫して作りました。

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―作品冒頭のアクションシーンのアキラの意識を白い線で表現する演出は面白いですね。人が殺されるシーンですが、不謹慎にも笑ってしまいました。

普通の殺戮のシーンにグラフィックを載せようというのは、プロデューサーのアイディアでした。僕もせっかく作るならちょっと他では見たことがない、面白いものにしたいと思ったので、過去にCMで一緒に仕事をしたチームにお願いしました。
アキラはただの殺し屋ではなく、天才的な殺し屋です。彼にはものがどう見えているか、何をどう感じながら、どう判断して殺しているかを図式化しています。作ってくれた人のセンスが素晴らしかったですね。

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―監督から見た岡田准一さんはどんな俳優でしたか。

格闘家であることはみなさんご存知ですが、ものすごくクレバーな人です。何を考えているのか、読めないときがありました。向こうはあえて意識してやっているのではないかと思いますが、一体何を考えているのだろうと思わせる。格闘技は間合いが大切ですが、それに通じるものがあるのかもしれません。

―現場では寡黙だったということでしょうか。

よく喋る方ではありませんが、では、まったく喋らないかといえば、そうでもない。人間としてはいい意味で、きわめて普通な人です。
誤解を覚悟で言うならば、芸能人、芸能人していない。一般の人の感覚を持っている人です。

―クールでありながら、コミカルな面もあるアキラの役作りについて、岡田さんと事前に何か話をされたのでしょうか。

岡田さんはそういう方ですから、原作を読んでいるでしょうし、脚本を読んで、自分の中でかなりアキラができていたのではないかと思います。殊更に膝を付き合わせて、キャラを詰めていくことはしませんでしたが、普通のそこら辺の兄ちゃんに見えるようにという話はしましたね。

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―格闘シーンで岡田さんからの提案はありましたか。

アクションに関しては本当にいろいろ話をしました。いっぱい話し過ぎて、細かいことは覚えていないのですが、リアリティについてはよく話をしました。いわゆるカンフー映画のように、ワイヤーアクションで人間が吹っ飛んでいくことはしない。あくまでも人間ができる範囲にする。オリンピック選手くらいの身体能力を持つ人がやればギリギリできるラインにリアリティを設定しようと話しました。
岡田さんは「アクションは一生懸命やればやるほどいいというわけではない」と言っていました。エネルギーを使って、長いアクションシーンを一生懸命やったとしても、結果的にダレてつまらなくなるということがよくあるという意味です。

―ごみ処理場に潜入する際、アキラは壁に両手を広げて、スパイダーマンのようにさささっと上っていきましたが、あれも岡田さんがやっているのでしょうか。

岡田さん本人がやっています。バックショットで顔が見えないんですけれどね(笑)。まるで早送りをしているかのようなスピードですが、勢いをつけないと上れませんから。そういう熱量が岡田さんからは出ていました。

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―撮影していて怖かったアクションシーンはありましたか。

どこもそうですが、桟橋がいちばん怖かったですね。桟橋の縁から小島が椅子ごと落下するのですが、その小島をアキラがすさまじい速さで駆け出して思い切ってダイブして空中でキャッチ。桟橋の手すりを掴んだまま、空中ブランコの要領でスイングして、階下にある窓ガラスをぶち破って安全地帯に逃げ込むのですが、スタッフもピリピリしていました。落ちたときの安全のためにセイフティーというワイヤーはつけていますが、ワイヤーを引っ張ってジャンプをさせているわけではありません。あくまで岡田さん本人が自分の足で走り込んでいっていますし、椅子に座っていたのも柳楽さんです。緊張感がありました。ケガなく終えてよかったです。

―アキラの相棒、ヨウコ役の木村文乃さんですが、豪快なキュートさに同性ながら心惹かれました。現場での木村さんのエピソードがあったら教えてください。

木村さんは自分から積極的にマンガのキャラクターの造形に近づけてくれました。僕としては、見た目がめちゃくちゃ離れていなければ、それぞれの役者さんにフィットした感じでやればいいかなと思っていたのですが、衣装合わせのとき、カーテンをパッと開けて出てきた姿があまりに似ていたので、「おお!」と声を上げてしまいました。ホクロもこだわってつけてくれていましたね。
この作品は女性が2人しか出てこないので、ヨウコのキュートさが救い。作品の大切な要素です。あの、やや大袈裟目なキャッキャとした感じはこれまでの木村さんの演技のトーンにはないパターンだと思いますが、意識してやってくれていました。

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―唯一、普通の感覚を持つミサキ役の山本美月さんの純真さに心が和みました。山本さんについても、エピソードがあったら教えてください。

山本さんは現場でももちろん素晴らしいお芝居なのですが、編集して通して観たとき、現場以上に魅力的なミサキというキャラクターが出来上がっていたのです。本人は百も承知でやっているのでしょうけれど、僕にとっては初めての経験で驚きました。しかも、それが極めてナチュラルなキャラ。ヨウコとミサキでメリハリができたのはよかったです。

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―ボスを演じたのは佐藤浩市さんです。出番は少なかったものの、にじみ出る存在感がありました。監督から見た佐藤浩市さんの印象はいかがでしょうか。

浩市さんとは初めて一緒に仕事をしました。以前から「浩市さんが出ると画が持つ」と聞いていましたが、本当に、そこにいるだけで文鎮のように重みが出るのです。
一方で、ボスというキャラクターをどういうトーンにするか、かなり細かいところまで、浩市さんは頻繁に相談してくれたのです。喋るスピードから表情の1つ1つまで、微に入り細に入り、一緒に考えていきました。大先輩ですが、同じ目線で一緒に作ってくださる。驚きと喜びを感じましたね。

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―作品からアキラに対するボスの愛情を感じました。

原作はまだ連載が続いていて、ボスがアキラに対してどう思っているかがはっきりしていません。そのため、映画には映画としての解釈が入っています。そこもこの映画の面白みかもしれませんね。
ボスとアキラ、海老原と小島。どちらも行き過ぎた子どもを親としてどう扱うかを描いています。この関係性は対になっていて、まるで合わせ鏡のよう。脚本がこの構造に辿り着いたことで、より面白くなったと思います。

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―監督にとって、この作品を見た人からもらう、最もうれしいホメ言葉を教えてください。

心の底から面白かったと言われること。ただそれだけです。

―これからこの作品をご覧になる方にひとことお願いいたします。

映画の醍醐味として、アクションがカッコいい、笑える、最後にグッとくるといったことがあります。いろいろ込めたものもあるのですが、これらの醍醐味を追求したいと思ったので、頭を空っぽにして見てください。
また、アクション映画はカッコいいだけのものも多いのですが、カッコいいだけでなく、笑えるところもあった方がよりカッコいいのではないかと思っています。ぜひ、笑いながらアクションを堪能してください。

(取材・撮影:堀木三紀)