King & Queen 駒谷揚監督インタビュー 自粛期間中、暇だったので48時間で短編を撮る企画に乗ったガチのファミリームービーが国際映画祭で受賞!

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ミラーライアーフィルムズ 駒谷組『King & Queen』

俳優の阿部進之介、山田孝之らが主導する、年齢や性別、職業、若手とベテラン、メジャーとインディーズの垣根を越え、切磋琢磨しながら映画を作り上げる短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)」。2022年公開の『MIRRORLIAR FILMS Season2』の参加監督として阿部さん、紀里谷和明、志尊淳、柴咲コウ、三島有紀子、山田佳奈、“選定クリエイター枠”419作品の中から選ばれた駒谷揚さんにお話をお聞きしました。

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駒谷揚監督 (本人提供)

[監督プロフィール]
サンフランシスコ州立大学卒業後、広告制作会社にディレクターとして勤務。
現在はフリーランスの映像ディレクターとして働きながら、長編、短編、Webなどスタイルに拘らず、様々な映像作品をつくり続けている。
長編映画「TICKET」(Chelsea Film Festivalで監督賞受賞)
2020年にスタートしたYouTubeコメディシリーズ「映画かよ。Like in Movies」は今年に入って数々の海外映画祭に入選。(Slamdance Film Festival他


―――先ず、制作のきっかけから教えて下さい。

‘20年の春に48時間以内で映画を撮るという縛りの海外映画祭があって、ちょうど自粛期間中だし家族もいるしで、みんなに打診したら即 OK だったんです。お題が出たのが金曜日。『タイタニック』の台詞「I’m King of The World!」を入れる、という条件でした。6時間で速攻、脚本を書きましたよ!弟の奥さんが妊娠中だったので、お腹の子が決め台詞を言うのも面白いかなぁと……。
金曜7時〜日曜7時までに完成させなければいけない。撮影は土曜日から。義妹は演技経験があるし、母はやりたがり(笑)。2人が中心になったら面白いだろうなぁと。

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―――雪が降っていたのはなぜですか?

あの年は3月末に雪が降ったんです。それもラッキーでした!土曜はそれほど降ってなくて室内撮影。日曜はけっこう積もってて屋外の撮影に当ててたんです。順撮りではないです。ライトがないので、室内の撮影は明るい昼日中に。
母と義妹のベランダ場面、ゾンビの場面は日曜に撮りました。父と弟でゾンビの動きをよく研究してくれたんですよ。血糊を付けたり、古着を買ってきてゾンビ風の衣装に作り直したり……。

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―――名演技でした!ところで、なぜ夫殺しをテーマに?

ゾンビ映画にはパーソナルな面白さがあると思っています。先ず、ゾンビが出て得をする人は誰だろう?という発想から生まれました。ゾンビに殺られちゃえばいいか!って(笑)。

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―――家族からのアイデアはありましたか?

さぁ、どうでしたか……。夢中だったのであまり覚えてないんですよ。


―――特に凝った場面は?

コメディが好きなのでポジティブな感じにしたかった。逃げる時も 荷物をたくさん持って出るでしょ?ゾンビから逃げる時はたいてい手ぶらで必死こいて走りますよね?(笑)
とにかく家族全員を出したかった。 猫のキャラも込みです。ツンデレな猫なんですけど、家族でわちゃわちゃやってるから、何だろうと覗きに来たところをすかさず撮りました。

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―――難しかった場面は?

父が倒れる場面は顔を写せなかったので(ゾンビメイクをしていない) カメラアングルが難しいかったです。それから 大声を出すのは1回だけと決めていました。キャーキャー叫び声が聞こえると、ご近所に、何事か?!と思われてはいけないので気を使いましたね。


―ーー撮り直したい場面はありますか?

猫を抱えて逃げられなかったことが残念でしたね。「あぁ、猫を置いてっちゃうんだ」と思われる。
でも、48時間なのでやり切った感はあります。

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――ー家族ならではの逸話があれば教えて下さい。

父が倒れたり、弟が倒れる場面がある。けっこう身体を酷使するのに嫌がらずによくやってくれたました。弟が結婚して家族が増えたこともあり、撮影で更に仲良くなれました。
男性陣は演技力に自信ないけど(笑)。弟の台詞は何テイクも撮ったんですよ。弟は実演販売士なんです。だからか 本人は「やれる」と言うんですけど、カメラを前にすると照れる(笑)。
母は元教員で特別支援学校の生徒さんと舞台をやってたこともあるんです。カメラの映り方も分かってた。息子を刺す角度は難しかったけど、何度も真剣に笑わず演技してくれました。
小道具は家族の手作りです。本当に良い記念になりました。撮影時、お腹にいた甥はもう1歳 になります。

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―――どんなゾンビ映画が好きですか?

うぅん、 ホラー映画は好きで、観るべき映画は観てますけどね。今回は制約ありきだったので、選択肢として先ずゾンビ映画が分かりやすく浮かんだんです。特にゾンビ映画が好き というわけでは……。


―――ホラー以外では?

ミステリやコメディが好きですね。『ユージュアル・サスペクツ』 が好きなんです。それから ウディ・アレン作品とか。 ミステリーとコメディがブレンドしたような映画が好きですね。

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―――今後の予定は?

もう今回はビギナーズラックというか 奇跡だと思うんでっ! 2度目は失敗すると言うし(笑)。義妹も今は子育てが大変ですからね。自分からというのはないと思います。


―――国際映画祭など海外での反響については?

映画祭に来て観てくれるお客さんですからね。ホラーコメディと観てるんです。ブラックユーモアと 気付くのが早いんです。台詞を面白いと言ってくれる。
爽やかな気持ちになる、といった反響もありました。 女性の時代という帰結にしたからかもしれません。今は誰もが映画を作れる時代として、 良いお手本になったのではないでしょうか。

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『MIRRORLIAR FILMS Season2』の参加監督 中断左が駒谷監督


☆助演女優賞並みの演技を見せてくれた母役の駒谷友子さんも、取材に参加してくれました。
―――映画制作は如何でしたか?


楽しかったです。48時間の企画ですし、台本を読む時間もなく、ゾンビの衣装を買ったり作ったり、忙しくてあっという間でしたけど、機会があればまた手伝いたいです。良い想い出になりましたよ。


―――演技といえど、息子さんを刺すのに抵抗があったのでは?

家で一番立派な包丁を使ったんですよ。実際に刺すことは出来ないから、身体から包丁を引いた映像を撮って、それを逆に再生するとか、なるほどなぁと思いました。


―――息子さんの監督ぶりは?

揚は怒ったり怒鳴ったりしない優しい子なので、不安感はありませんでしたよ。ほのぼのとした雰囲気が予想できました。


―――どんなお子さんでしたか?

昔から、近所の小さい子たちを集めてハイキングしたり、子どもたちと遊んで楽しむことが好きな子でした。”将来は保育士になりたい”と進路に書いていたこともありましたね。
私が子ども劇場の運営に関わっていたこともあって、努めて生の舞台を見せてきました。 揚が初めて字幕の映画を観たのは6歳の時の『スターウォーズ』なんです。それから雑誌「スクリーン」を買い始めて、英会話を習いに留学したり……。そういうことが全部この映画に繋がっているんですね。

★取材を終えて
半径1メートルの世界から撮りあげた手作り感満載の映画は、温かな家族愛に育まれた結晶なのだと実感しました。監督は「撮影後に大急ぎで編集しなければならなかったので、正直、撮影中のことはあまり覚えてない」そう。たかが6分といえど、短編は最もセンスの善し悪しが顕在してしまうもの。ボケの場面とゾンビが襲って来る臨場感の緩急が魅力な本作は、編集のテンポがカギです。家族の信頼と協力を得て順調に撮影し、編集に打ち込め「やりきった感がある」と語る監督は幸せなクリエイターですねぇ。映画が大好きな仲良し家族の雰囲気が、海外の観客にも伝わったのでしょう。叶うことなら、ゾンビのように何度でも甦って映画制作してほしいものです。
(取材・文:大瀧幸恵)


『King & Queen』の作品紹介記事はこちらです。

ミラーライアーフィルムズ 駒谷組『King & Queen』
<あらすじ>
夫の殺害を企む妻。
殺害方法に悩む彼女の元に、とんでもないニュースが飛び込んでくる。
世界各地でゾンビが大量発生したというのだ!

監督・脚本・撮影・録音・編集:駒谷揚
プロデューサー:駒谷揚
美術:駒谷卓、駒谷友子
音楽: 長谷川哲史
音響効果:田中航
出演:駒谷由香里、駒谷友子、駒谷秀一、駒谷海、駒谷陸斗、ノアちゃん

2020年5月完成/カラー/ステレオ/16:9(画面サイズ)/6分19秒


『中村屋酒店の兄弟』藤原季節さん、長尾卓磨さんインタビュー

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*プロフィール*
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藤原季節
1993年生まれ、北海道出身。2014年、映画『人狼ゲーム ビーストサイド』(熊坂出監督)で俳優活動をスタート。主な映画出演作に『ケンとカズ』(2016/小路紘史監督)、『全員死刑』(2017/小林勇貴監督)、『止められるか、俺たちを』(2018/白石和彌監督)、『his』(2020/今泉力哉監督)『佐々木、イン、マイマイン』(2020/内山拓也監督)、主演映画『のさりの島』(2021/山本起也監督)、『くれなずめ』(2021/松居大悟監督)、『空白』(2021/吉田恵輔監督)、『DIVOC-12』(2021/三島有紀子監督)等。
待機作に映画『この日々が凪いだら』(常間地裕監督/2022年2月25日(金)公開)、映画『その消失、』(狩野比呂監督/2022年2月25日(金)公開)、8Kスペシャルドラマ「海の見える理髪店」(BS8K/2022年3月下旬、BSプレミアム2022年4月以降放送予定)、映画『わたし達はおとな』(加藤拓也監督/2022年6月10日(金)公開予定)他、多数控えている。
→※掲載タイミングによって待機作or公開中と変更する。
第42回ヨコハマ映画祭 最優秀新人賞、第13回TAMA 映画賞最優秀新進男優賞受賞。

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長尾卓磨
1981年生まれ、神奈川県出身。『ヴィタール』(2004/塚本晋也監督)で初めて映画の現場に入る。
最近の出演作に『ミセス・ノイズィ』(2020/天野千尋監督)、『罪の声』(2020/土井裕泰監督)、『ヤクザと家族 The Family』(2021/藤井道人監督)、『機械仕掛けの君』(2021/磯村勇斗監督)、『愛のくだらない』(2020/野本梢監督)、『カム・アンド・ゴー』(2021/リム・カーワイ監督) 、『信虎』(2021/金子修介監督)等。

『中村屋酒店の兄弟』
監督・脚本:白磯大知
〔ストーリー〕
数年前家を出て一人東京で暮らす和馬(藤原季節)は、親が経営していた酒屋を継いだ兄、弘文(長尾卓磨)の元へ帰ってくる。年齢を重ね、変わってしまった母の姿に戸惑いながらも、その時を受け入れ過ごしていく和馬。相手を思うほど、和馬、弘文は少しずつズレていったお互いの距離を感じていた。
和馬の抱える秘密を知る弘文、それを知る和馬。お互いが前に進むためとった選択には、純粋に相手を思う辛さと難しさがあった。そして、2 人は朝を迎える・・・。
https://nakamurayasaketennokyoudai.com/
©『中村屋酒店の兄弟』
★2022年3月4日(金)より渋谷シネクイントにてレイトショー先行公開
2022年3月18日(金)より全国順次公開

作品紹介はこちら
★白磯大知監督インタビューはこちら

*ラストに触れています。ネタバレを避けたい方は鑑賞後にお読みください。

―お2人は最初から俳優を目指していらっしゃったんですか?

藤原 僕は物心ついた時から俳優になりたいと思っていました。映画が好きだったんですよ。ジャッキー・チェンに憧れて、絶対俳優になるぞと決めていたので高校卒業後上京しました。

―じゃあ夢を叶えられたんですね。

藤原 まあまだ途中ではありますけれども。一応。
長尾 子どものころ、「先祖が上杉謙信だよ」と聞いて、戦国武将になりたかったんです。現代社会では無理だなと思って、馬に乗って刀振り回すにはこの中に入ればいいのかなって。それが中井貴一さん主演の「武田信玄」(1988年大河ドラマ)。仕事としては大学卒業してから広告代理店に入って、遠回りしました。

―俳優じゃなく”武将”が始まり!だからお城巡りがお好きなんですね。なりたかった武将役は?

長尾 『信虎』(2021/金子修介監督)で上杉景勝(長尾顕景)役をやらせていただきました。やってみたいのは、やはり上杉謙信(長尾景虎)役です。
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―役をいただいたときと、演じ終わってから印象の違いはありましたか?

藤原 役をいただいたときは、兄弟との関係性で役を見ているというよりは「和馬」という役にフォーカスして見ていたんです。東京と実家を行き来して居場所を探している青年を演じるんだな、って。演じ終わったときに、長尾さんっていうお兄ちゃんと共演して「兄と一緒にいるときの自分」っていうのは、ある意味弟という役割だったり、仮面をかぶった弟という人間を演じようとしている青年でもあるなと思って。それが自分が働いている、東京でやってきたこととかが兄にバレたりして、そういう身ぐるみ剥がされていくというか正体がバレていくところの変化だったり、関係性においての青年にフォーカスを合わせて見れるようになった。それが演じる前と後では違いました。

長尾 僕も最初の印象では「何を勝手なこと言ってるんだ」と弟に対してあったんですけど、季節くんが、会った瞬間から可愛くて、どんどん可愛くなってきて、なんかずっと横顔を見ていたような感覚がありました。
監督が常々「優しく、もっともっと優しく接してください。怖いほど優しく。全て表面上は優しく」と言っていて。終わったときは、今、季節くんが言ってくれたみたいに、「兄という役割を自分で作っている」「兄としての役割を急に演じなくてはいけないと思いこんだ人間」なんじゃないかなと、同じようなことを考えました。

―優しい、いいお兄ちゃんでした。

藤原 その「優しい、いいお兄ちゃん」っていうのは、弟の前で見せるお兄ちゃんの顔で、本当のところは何もわからない。そういう裏側も見える映画になっていればいいなと思います。

―お兄ちゃんが一瞬怖く見えるところがありますね。お母さんの介護をずっと1人で背負ってきて、数年後に帰ってきた何もしなかった弟に対しての葛藤があると思いました。

藤原 そう見ていただけると嬉しいです。

―お母さんの言う「ありがとう」が他人に対しての「ありがとう」で、そこがお兄ちゃんには辛いだろうと思いました。お2人は、お若いので介護の経験はないでしょう?

長尾 祖父母はいますが、そこまでの介護はしていないです。
藤原 僕も未経験です。

―長尾さん、ご兄弟はいらっしゃいますか?

長尾 いません。ひとりっ子です。

―藤原さんは妹さんがいらっしゃるんですよね。

藤原 はい、そうです。姉もいます。

―女の子の間の男の子って特権階級みたいなものです(笑)。優遇されますよね。

長尾・藤原 (笑)そうですね。
藤原 たしかに、優遇という言い方はあれなんですけど、母からは可愛がってもらってたんじゃないかな、と思います。

―「しかたがないなぁ」と思いつつ弟は可愛い。お兄ちゃんは弟が生まれたとたん「お兄ちゃん」でいなくちゃいけなくて、それなのに…という辛さもあります。短い中にいろんなことが詰まっていて、監督さんがお若いのにこのお話、と驚きました。

藤原 僕もそう思いました。
長尾 うん。

―今振り返ってみて、印象に残っているシーンは?

藤原 最後に兄が弟に言う言葉ですね。封筒の。
あの台詞に白磯君が言いたかった兄弟の距離間というものが、全部詰まっているように思います。弟が東京で何をしてきたかということを知って、兄が問い詰めることもできた。でもそれを全部飲み込んで、あの台詞に全てを込めるっていうのがやりたかったことなんじゃないかな。
そのとき自分が演じていた和馬の表情も印象的だなと、自分自身思いました。

―まばたき多くなっていました。

藤原 (笑)

―お兄ちゃんはいかがでしょうか?

長尾 僕はその前夜の2人でタバコを吸うところ。弟がどういう時間を過ごして店の前に出てきたのか、言葉を用意していたのか、しなかったのかという2人の関係。兄ははじめ、次の日に行くことがわかっているのかいないのか。2人のあいだにたゆたう時間、とても印象的でしたね。

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―この映画で耳に残ったのが、2人が呼ぶ「母ちゃん」なんです。いいな、と思いました。お2人差支えなかったら、お母さんを何と呼んでいらっしゃるか教えてください。

藤原 僕は「かあちゃん」って呼んでますね。

―映画と同じですね。長尾さんは?

長尾 ○○子。さん付けするか、しないか。

―名前を呼ぶんですか?

藤原 長尾さんらしいですね。
長尾 そうかな? 十代から両親は名前で呼んでいます。

―それは、ご両親に言われたわけじゃなくて、自分で?

長尾 はい、自分で。家に来る友達もみんなそう呼んでいました。

―母親という役割より○○子さんが前に出ているって、すごく個人的というか欧米っぽいです。

長尾 反抗期のころで、所詮他人だろうっていうのもあって。その方が人として敬意をもって接することができるだろう、と。お袋っていうのもなんかちょっと。

藤原 父親のことを「親父」って呼べないな、呼んでみたいな、とかありますけど。「所詮他人だろう」っていうのは言い方を変えれば、他人として認識している。「母」ってあてはめちゃうとどうしても甘えが出てきちゃいますが、一人の他人だと認識することで敬意を持てる側面もあると思います。

―個人として尊重しているって感じがしますね。クールだ!とっても(笑)。

藤原 原田芳雄さんも自分の息子に下の名前で呼ばせてたって。
長尾 そうなんだ。

―監督が俳優を選ぶように、俳優も作品を選びますね。そのときに決め手になるものはなんですか?

藤原 やっぱり最初に脚本。その次に過去の作品。スタッフ、で最後にキャストですね。

―自分のほかに誰が出るかということですね。自分の役柄についてこだわりはありますか?

藤原 それよりも、その役柄がその作品にどういった影響を及ぼしているかとか、作品のことをまずは考えて、小さい役でもそれに参加すべきだなと思ったら参加します。

―例えば快楽殺人犯の役とか、自分はちょっとと思うことは?

藤原 新しい感情とか、新しい自分に出逢えるチャンスがあるなら僕は飛び込みたい、と思っています。

―おお、チャレンジャーです! 長尾さんは?

長尾 監督含め、撮りたい方々が…なんとなくこういうと生意気かもしれないですけど、今の世の中に対してどう思っているかということが感じられると嬉しいですね。参加する身としては。自分が生きている環境、取り巻いている世界に対して、どういうものを持って表現したいかを、監督、脚本から感じ取れると参加させてもらえる意義を感じる気がします。

―監督さんにもよると思いますが、たとえば自分の役作りでたくさんディスカッションしたいほうですか? 任されたいほうですか?

長尾 どっちでも(笑)。
藤原 長尾さん結構、「向こうが望むなら僕はするし」という、なんかいい意味での受け入れというか、懐の深さがある人だなと現場で思いました。

―受け入れる間口広いんですね。かなり広いんですか?

長尾 それで季節くんをとまどわせてしまったかも(笑)。
藤原 最初とまどいました。

―広いと嬉しくないですか?ストライクゾーン広くて、どんなのも受け止めてくれる。

藤原 多少イラっとすることとか、これは言わなきゃっていうことも長尾さんは絶対言わない。全部受け止める。この人何考えてるんだろうと、最初思いましたね。

長尾(笑)

―映画の中村兄弟みたいですね。

藤原 そうですね。スタッフが映画を撮ったことのないチームだったので、最初はやり方がわからない中でしたが、3,4日経つと長尾さんや僕が望んでいた動き方に自然となっていきました。お芝居の中で起きたことを撮る。最初は「撮る」ことが目的なんですけど、僕たち2人の中で起きたことを撮ろうという流れに変わっていったんです。まずお芝居を見てから、何を撮るか考えよう、みんなでって。それは長尾さんが初日から黙っていたことで、自然発生的に起きていったことでしたね。

―呼び水。黙って。

長尾 そんなたいそうなもんじゃない(笑)。

―ご本人はそんなに意識しないでやっていたんでしょうか?

長尾 しないと言ったらウソになるかと思うんですけど。なんか見ないようにしようと思って(笑)、変な言い方だけど。

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―では最後にこの映画のテーマのひとつでもある「消えてほしくないもの」はなんですか?パッと思いついたことを。

藤原 パッと思いつくもの。手書きの手紙とか捨てられないです。新しくいろんなものが生まれていって、人の体温の残っている直筆の手紙は減っていくのかもしれないですけど、消えてほしくないなと思いますね。

―お母さんからの手紙はとってあるんですか?

藤原 ずーっと全部とってあります。捨てられないです。

―10年分?! お返事は出しています?

藤原 出してませんね。

―親って手紙すごく待っているんですよ。

藤原 そうですよね、書いてみます。やっぱりメールとかと違いますよね。

―違いますよー。お母さんを思って時間かけて書くんですから。
ハガキでいいですし、何と書いてあったって親は嬉しいものです。


藤原 はい、わかりました。

―長尾さんの消えてほしくないものは?

長尾 僕は「家族との思い出」ですかね。ぱっと思い浮かぶのは。どこかに行ったとか忘れてることって意外とたくさんあるなと思って。

―思い出は自分だけのものですものね。形のあるものでは何か?

長尾 その辺の再開発で、好きだった古くからの料理屋さんとかがなくなるのはとっても悲しい。
藤原 「家族との思い出」ってハッとしますね。全部消えていくものじゃないですか。
長尾 うんうん。
藤原 なんか切ないですね。それは。

―この映画で、お母さんが忘れていってしまうのにも繫がりますよね。和馬とお兄ちゃんにも。

藤原 それをわかったうえで「家族の思い出」って着想する長尾さんにぐっとくるものがあります。
長尾(笑)

―素敵なお答えをいただけました。ありがとうございました。

(取材・写真 白石映子)


=取材を終えて=
「初めまして」のお2人を一度に取材させていただきました。鷹揚で優しいお兄ちゃんに活発な弟という感じで、なんだか映画の中村屋酒店の兄弟と雰囲気がよく似ていました。ご先祖様が上杉謙信という長尾卓磨さん、剣道少年だった藤原季節さん、いつか時代劇で再共演されたらいいなぁと妄想が膨らみます。
いつも最後にお気に入りか、映画界に進むきっかけになった「この1本」を伺うのですが、時間切れになってしまいました。長尾さんからは「エミール・クストリッツア監督の『アンダーグラウンド』(1995)。これも兄弟の映画ですね」とお返事。藤原さんの1本が何か伺えるように、元気でいてまた取材させていただかなくては。そうそう、藤原さん、作品続きでお忙しいのですが故郷のお母さんにお手紙は書かれたでしょうか?(白)

『再会の奈良』ポンフェイ監督インタビュー

なら国際映画祭プロジェクト「NARAtive(ナラティブ)」では今後の活躍が期待される若手の映画監督が奈良を舞台にした映画を撮影し、世界へ発信しています。『再会の奈良』は「NARAtive2020」から生まれた日中合作映画。歴史に翻弄された「中国残留孤児」とその家族がたどる運命、互いを思い合う気持ちを、2005年秋の奈良・御所市を舞台に切なくもユーモア豊かに紡いでいます。

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エグゼクティブプロデューサーを務めるのは、なら国際映画祭のエグゼクティブ・ディレクターでもある奈良出身の河瀨直美と、中国映画「第六世代」を代表するジャ・ジャンクー。
監督・脚本を手掛けたのは、中国出身のポンフェイ監督。ツァイ・ミンリャン監督の現場で助監督・共同脚本などを務め、ホン・サンス監督のアシスタントプロデューサーも務めた経験を持っています。ポンフェイ監督にzoomでお話を伺いました。

<あらすじ>
2005年、中国から陳ばあちゃんが、孫娘のような存在のシャオザーを頼って一人奈良にやって来る。中国残留孤児の養女・麗華を1994年に日本に帰したが、数年前から連絡が途絶え心配して探しに来たという。2人が麗華探しを始めると、シャオザーが働く居酒屋の客だった元警察官の一雄が麗華探しの手伝いを申し出る。一雄はシャオザーに自身の娘の面影を重ねていた。
奈良・御所を舞台に、言葉の壁を越えて不思議な縁で結ばれた3人のおかしくも心温まる旅が始まった。異国の地での新たな出会いを通して、果たして陳ばあちゃんは愛する娘との再会を果たせるのか。

――本作は中国残留孤児とその家族がたどる運命、互いを思い合う気持ちを描いています。物語の着想のきっかけをお聞かせください。

以前から日本の文化や歴史、映画が好きでいろいろ見ていたのですが、いざ奈良を舞台に日中合作で映画を撮るとなったときに、中国人留学生の話や日本と中国の遠距離恋愛を書くのは違うと思ったのです。あくまでも普通の人たちの暮らしを丁寧に描きたかった。そのときに残留孤児のことを思い出したのです。
北京にいたときに本やドキュメンタリーなどの資料で残留孤児のことを調べました。その中にかつて満州があった東北地方を取材した記者が書いた本があり、そこに養母の方々が口を揃えるように「日本に自分の子どもたちを探しに行きたい」「見つからなくても、子どもたちの故郷を見に行きたい」と言っていたと書かれていたのです。
しかし、養母のみなさんは年齢が高く、実際にその願いが叶えられた方は多くなかったのではないかと思います。せめて映画の中で彼女たちの夢を叶えてあげたい。これが着想のきっかけです。養母が娘を探すという設定はフィクションですが、この作品の中に出てくるエピソードは僕が実際に残留孤児の方にうかがった話が8割くらい入っています。

――日本の若い世代には中国残留孤児の存在を知らない人も少なからずいます。監督の世代の中国の方はいかがでしょうか。

僕自身も残留孤児についてあまり知りませんでした。昔、NHKのテレビ番組で見て、何となく知っていた程度。周りに残留孤児の人はいません。
この作品は少し前に中国で上映が始まり、舞台挨拶でいろんな地域を回わりました。そのときに「どうやってこの作品を思いついたのですか」とよく聞かれましたが、東北地方で舞台挨拶していたときに、観客席で号泣している方がいらしたのです。司会の方がマイクを渡したところ、その方のお祖母様が残留孤児で、以前、映画と同じように日本に親族を探しに行ったけれど見つからず、とても落ち込んで帰ってきたという話を聞いたのを思い出して、泣いてしまったと言っていました。やはり東北地方の方にとっては遠い話ではないんだなと感じました。

――地域によって受け止め方が違うのですね。

東北地方ではとても身近に受け止めてくださったのですが、他の地方では「残留孤児という境遇の方がいらしたんですね」という感想が多く、20代の方々は戦争を知らず、血の繋がっていない親子の愛に感動していましたが、僕の世代より上の方は、「戦争をしてはいけない」という感想を持たれました。
日本に滞在していた時のことですが、助監督をしてくれた人が「この作品に入るまで残留孤児について知らなかったのですが、この作品の撮影を通して理解が深まりました。日本人として今の平和を保たなければいけませんね」とクランクアップの日に話してくれたのが印象に残っています。

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――脚本を書くにあたり、残留孤児の方に取材をされたかと思いますが、話をうかがって何を思われましたか。

取材は日本でしたのですが、お話をうかがったのは2世の方。2世の方でも60代の方が多い。1世の方は探し出すのが難しくて会えませんでした。映画のスタッフにも3世の方がいました。2世、3世の方はまだ少し中国語が理解できますが、4世の方はもう日本に根付いてしまって日本語しか話せません。
もともと日本人だったのが運命に翻弄されて中国人になってしまい、改めて日本人として帰ってきて、代を追うごとに日本人に戻ってきたんだなと感じました。

――脚本は中国ではなく、日本で書かれたのですね。

日本で残留孤児の方を探したり、ロケハンをしたりしていたので、いろいろ合算すると8カ月くらい日本に滞在していました。思っていた以上に長い期間になってしまいました。

――日本で撮影してよかったこと、苦労したことがありましたらお聞かせください。

日本で撮影してよかったところは河瀨直美さん、國村隼さん、永瀬正敏さんという日本のプロフェッショナルな方々とお仕事ができたこと。美術の塩川節子さんも本当に一生懸命に取り組んでくれて、描いてくれた絵がすごくきれいで、本にしたいくらいでした。キャストやスタッフがみんな、全身全霊で取り組んでくれて、本当によかったと思っています。
ただ、映画の撮影習慣が日本と中国ではやっぱり違う。それをどうすり合わせていくかが大変でした。とはいえ、映画の撮影は何か問題が起こってそれを乗り越えていくことの連続。それに関しては中国で撮っても同じです。振り返ってみて、ちゃんと乗り越えられました。
もう1つ日本のいいところは居酒屋があるところですね(笑)。中国にも似たようなお店はありますが、あくまでも日本の居酒屋を真似た感じなので、日本の居酒屋がいいです。作品冒頭に出てくる居酒屋は偶然、通りかかって見つけたお店で、すごく生活感があるところが気に入って、撮影に使わせてもらいました。

――最後にひとことお願いします。

戦闘シーンがなくても反戦をテーマにした映画は作れます。戦争が終わってもなお残る痛みを描きたい。さらに親子の愛もテーマとして強く意識して、反戦映画として脚本を書きました。多くの方にご覧いただけますとうれしいです。

<プロフィール>
監督・脚本
ポンフェイ
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1982年12月29日、中華人民共和国、北京市生まれ。フランス・パリの映画学校、Institut International de lʼImage et du Sonの映画コースを卒業。2006年中国へ帰国後、2008年からアシスタントとして映画製作を開始。台湾で活動する映画監督ツァイ・ミンリャンのもとで経験を積む。同監督の『ヴィザージュ』(09)で助監督を務め、第70回ヴェネツィア国際映画祭審査員大賞を受賞した『郊遊<ピクニック>』(13)では助監督・脚本も手掛けた。その他、ホン・サンス監督の『アバンチュールはパリで』(08)には、アシスタントプロデューサーとして製作に参加している。長編デビュー作『Underground Fragrance』(15)は、ヴェネツィア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門にて初上映され、シカゴ国際映画祭では新人監督コンペティションでゴールデン・ヒューゴ賞を受賞。2016年1月にはフランスで劇場公開された。また、長編2作目となる『ライスフラワーの香り』は、2017年ヴェネツィア国際映画祭のFedeora賞にノミネート、同年の平遥国際映画祭では中国新人監督部門で最優秀作品賞に選ばれる。2018年のなら国際映画祭にて観客賞を受賞し、NARAtive2020映画製作プロジェクトの監督に選出され、日本の奈良を舞台に本作『再会の奈良』を手掛けた。

『再会の奈良』
出演:國村隼、ウー・イエンシュー、イン・ズー、秋山真太郎(劇団EXILE)、永瀬正敏
監督・脚本:ポンフェイ
エグゼクティブプロデューサー:河瀨直美、ジャ・ジャンクー 
撮影監督: リャオ・ペンロン
音楽:鈴木慶一
編集:チェン・ボーウェン
録音:森英司
照明:斎藤徹
美術:塩川節子
後援:奈良県御所市 配給:ミモザフィルムズ
中国、日本 / 2020 / 99分 / カラー / 日本語・中国語 / DCP / 1:1.85 / Dolby 5.1
英題:Tracing Her Shadow 中題:又見奈良
© 2020 “再会の奈良” Beijing Hengye Herdsman Pictures Co., Ltd, Nara International Film Festival, Xstream Pictures (Beijing)
2月4日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開 / 1月28日(金)より奈良県にて先行上映
https://saikainonara.com/

シネマジャーナルスタッフの宮崎さんが「スタッフ日記」でも作品について取り上げています。
『再会の奈良』に出演の女優吴彦姝(ウー・イエンシュー)さん
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484876714.html

『再会の奈良 』作品紹介はこちらです。
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/485421857.html

『フタリノセカイ』飯塚花笑監督インタビュー

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*プロフィール*
飯塚花笑(いいづか かしょう)1990 年生まれ。群馬県出身。
大学在学中は映画監督の根岸吉太郎、脚本家の加藤正人に学ぶ。トランスジェンダーである自らの経験を元に制作した『僕らの未来』(2011)は、ぴあフィルムフェスティバルにて審査員特別賞を受賞。国内のみならず バンクーバー国際映画祭等、国外でも高い評価を得た。大学卒業後は「ひとりキャンプで食って寝る」(TV 東京)に脚本で参加。フィルメックス新人監督賞 2019 を受賞するなど活躍している。2020 年 4 月、「映画をつくりたい人」を募集するプロジェクト『感動シネマアワード』のグランプリ作品6作品のうちの1つに選ばれる。
『僕らの未来』PFFアワード2011審査員特別賞、『青し時雨』、『海へゆく話』沖縄国際映画祭2016 優秀賞

『フタリノセカイ』
脚本・監督:飯塚花笑
出演:片山友希、坂東龍汰、クノ真季子、松永拓野、
保育園に勤める今野ユイ(片山友希)と実家の弁当屋を手伝っている小堀真也(坂東龍汰)は、出会ってすぐに恋に落ちた。将来結婚する約束を交わし、幸せな日々を過ごしていたが、真也には、ユイに伝えていないことがあった。それは、体は女性、心は男性のトランスジェンダーだということ。真也が時折見せる思い詰めた顔に不安を感じていたユイは、ある時、その理由を知る。
https://futarinosekai.com/
(C)2021 フタリノセカイ製作委員会
作品紹介はこちら
★2022年1月14日(金)新宿シネマカリテほか全国順次公開


―映画はトランスジェンダーの当事者である飯塚監督だからこそできた作品ではないかと思いました。私はたまたま映画を一般の人より多く観ているので、LGBTについての知識もいくらかありますが、深くは知りません。
『きこえなかったあの日』の今村彩子監督に、「聞こえない方に私たちができること」を尋ねたときに「まず聞こえない人がいるということを知ってほしい」と言われました。飯塚監督もトランスジェンダーのことをもっと知ってほしい、と思われますか?


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そうですね。僕も知ってほしいと思います。この映画でも描いていますように元々男性として生まれて生きて来た人とは違う部分は、ありますので。みんながトランスジェンダーの知識を持っていて、こういう人間が気づかないけど身近にいるかもしれないという想定の中で話が進んでいったりですとか、そういう配慮があるともっともっと生きやすくなると思うことが多々あります。
僕の描くものでは、自分のパーソナリティと切っても切り離せない部分がおおいにあります。いろんなタイプの方がいて、自分のパーソナリティを隠して生きている方もいらっしゃいますが、僕の場合は特に隠すつもりもなく、トランスジェンダーであることは自分自身の一部であり特性だと思っています。抵抗感はないので、記事を読まれる方も僕のパーソナルな部分も含めて読んでいただければより理解が深まったりするのでは、と思います。

―ありがとうございます。では映画についての質問を。今劇場にかかるということは、コロナ禍の前に撮った作品ですか?

撮影自体はコロナの前です。2019年の6月に11日間で撮りました。編集まで終わっていて、音の仕上げの段階でちょうどコロナで自粛に。

―撮影が終わっていてよかったですね。6月でも雨のシーンはなかったですが。

奇蹟的にかわしたんですよ。「僕らほんとに行いがいいね」と(笑)。外で撮影していて次のシーンで中に入ろうと言った瞬間に降り出したり、逆に室内のシーンをやっているときに雨だから次のシーン撮れないかなと言って終わったら、雨が上がったり。

―それは映画の神様に可愛がられたんですね。

ほんとに神様いるんじゃないかって。あれで運を使い果たしたかもしれない(笑)。

―いやいや、これからもいい行いを積み重ねて、ヒットに結びつけてください。ロケではあのお弁当屋さんと上の信也の部屋、保育所がメインでしたね。

最初は予算的にも、営業しているお弁当屋さんを借りて2日間で撮り切るしかないか、とそういう案で動いていたんですが、やはり10年の歴史を2日間でまとめるのは無理ですし、映画として良くないよねと。元々中華屋さんだった、1階が店で2階にあの住居スペースがある建物を見つけて、作りこみました。高崎フィルム・コミッションさんと制作部が頑張ってくれました。高崎で撮影して全面協力していただいたのに、ある地方都市という設定で高崎らしいところが写っていないんですが。

―最初のほうに保育所に勤めるユイがイザナギ、イザナミのお話をする場面があり驚いたのですが、あのアイディアはどこから出たのでしょう?

物語の最初に、これから起きることに関わる象徴的なお話を持ってきたいとずっと考えていて、絵本や童謡など見たり聞いたりしました。日本書紀(古事記も)を現代語訳したものがあって、ああいう話になるんですよ。あそこで表現したかったのは、幼少期から家族を持つのが幸せだよとか、男の人と女の人がいて、最終的にこういう形になるんですよ、という「刷り込み」がこの世の中にあふれかえっているという象徴としてああいうものにしたんです。

―キャストの方々が素敵でした。片山友希さんのユイ、坂東龍汰さんの真也、若いときのまっすぐでピュアなところなど、おばあちゃん目線でよくケンカするなぁ、若いなぁ、可愛いなぁと観ていました。お2人のキャスティングはどういう風に決まったんでしょうか?

そもそも「友希を主演とした作品を撮りたい」と、芸能事務所のブレスの社長である狩野さんから相談を受けて、その後『フタリノセカイ』を提案しました。坂東君に関しては、狩野さんからご提案があって。最初はシスジェンダーである彼にトランスジェンダーを演じられるのか?という不安はあったのですが、色々と資料を見させていただいて、トランスジェンダーの特性を持っていると感じたので、キャスティングに至りました。
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―松永拓野さんの俊平くんもとても印象に残りました。3人の喫茶店でのシーンに泣けました。飯塚監督の以前の短編にも出演されていますね。

すばらしい役者さんです。やんちゃな役が多いんですけど。この役は松永さんでないとできなかったです。

―この映画にはトランスジェンダーだけではなく、子どもを産む人、欲しくてもできない人、理解する人、しない人と、いろんな立場の人、エピソードがたくさん入っています。監督が体験したこと、見聞きしたことが多いかと思いますが、モデルになった方がいらっしゃるんですか?

特にモデルという人はいないんです。やはり身の回りの、僕と同じトランスジェンダーの「結婚ができない」「子どもができない」ということで、パートナーから別れを切り出されたというのが「あるある」というか、よくある話なんです。
10年前だと、精子提供していただいてトランスジェンダーが子どもを育てるというケースはあまり聞かなかったんですが、最近はよく聞くようになりました。

―やっぱりここ数年で周知が進みましたか?

そもそもトランスジェンダーが父親だと認められなかったんですよ。今まで精子をもらってパートナーが出産しても、父親として認められなかった。それが2013年から認められるようになった。一度最高裁までの裁判になって、そこで父親と認める判決が出て、そこから変わったんです。

―ほんとにもう次から次へと壁がたちはだかりますね。
私はやはり親の立場で観てしまうんですが、この映画の真也のお母さんはとても理解があるように見えましたが、ユイに「わかったふりしないで!」と言われるシーンがあります。ギクッとしました。
親ってどうしたらいいんだろう、どこまで理解できるだろうと思いました。子どもにしても親になかなか打ち明けられないということがありますね。


もちろん一番身近な人間から否定されるかもしれないということがあります。僕の友人の中にも親が理解してくれなくて、そこから絶縁状態になってしまうとか、そういうパターンもありました。言ってみないとわからないじゃないですか。うちの両親もそうでしたけど、思った以上に拒否反応を示しました。僕はもうちょっと受け入れてくれるという風に期待してカミングアウトしていたんですけど。よその子が当事者であったら、そこまで拒否しない。いいんじゃないくらい。それがわが身になると、「やっぱり孫の顔を見たい」とかある種の幸せ像を持っているんですね。なかなか受け入れられない時間がありました。

―前例も参考になることもあまりに少なくて知らないことばかりです。でも今まで人間が生きて来た中で必ず(LGBTの人が)いたはずなんです。これまで表現することも、パートナーに出逢える機会もないまま人生終えてしまった人がたくさんいたんでしょうね。

「自分がそうだ」と言ったらそれこそ差別されて「お前はおかしい」と言われる時代では、そういう人たちはアンダーグラウンドの世界に行くか、自分の心を偽るしかなかった。80歳90歳になってカミングアウトした方の記事を読んだことがあります。ずっと心のうちに秘めてきて、奥さんが亡くなられてから初めてカミングアウトされた。

―やっと言える時がきて。言えて重い荷物をおろした感じでしょうか。

ようやく言えたって、その勇気もすごいですよね。差別されてきた時代を生きて、ようやく言える時代が来て、それでも言うことのハードルって高かったと思うんです。

―合わない靴だって少しの間も履いていられません。身体や心の入れ物がちがうってどんなに辛いか、例えようがないですね。昔だったら、命がけのことですし。

国によっては同性愛が違法となり、死刑となる国もあります。異常だから治せというところもあります。

―真也の胸が見えるシーンがあります。とても綺麗なんですが、造形したんですか?

あれは”エピテーゼ”と言う、たとえば乳がんの方とか、病気や事故で身体の一部をなくした人のために作るものなんです。坂東くんの身体に合わせて型を取って作りました。すごく綺麗で最初見たときびっくりしました。本物にしか見えないんです。
ちょっと大きすぎたかなと思ったんですが、彼の肩幅に合わせるとあのサイズになるんです。

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―坂東さんめったに経験できないことですが、なんとおっしゃっていましたか?

喜んでました(笑)。でも真面目な話、真也はトランスジェンダーで自分には胸があってほしくないと思って生きている人物です。実際に胸をつけたり、胸をつぶすような服を着てもらったりしたときに呼吸が苦しくなるとか、胸が目立たないように猫背になるとか、そういうことが彼の役者としての肉体の感覚として、腑に落ちたと思うんです。

―あの胸をどこで見せるかが難しかったんじゃないでしょうか?

それはものすごく議論しました。脚本の段階でもそうでしたし、最終的な編集の段階までかなり議論しました。物語の序盤では一切真也がトランスジェンダーだという痕跡を見せていません。実は撮影の素材では早い段階で見えるシーンも描いていました。ただ早い段階でわかってしまうと、サスペンスにならない。真也は何か隠しているけど、何なんだろう?というのが生まれないので、これはもうちょっと後ろまで引っ張っていったほうがいいんじゃないのということになって、編集で切りましたね。

―ユイの結婚相手が憎まれ役でした。眼鏡女子が好きな人でしたね。

実は、眼鏡は象徴的に使っています。ユイが眼鏡をかけているときは、ある一つの「既存の価値観のフィルターを通して世の中を見ている」んです。

―ああ、真也くんと一緒にいれば外せるんですね。あの夫はユイが外した眼鏡をかけさせる。

そうです。裏設定なんですけどユイを自分の価値観で縛るんです。

―この映画、ジェンダーのことだけじゃなくて、そんな風に男女や結婚生活のことも描かれていて面白かったです。脚本は何稿で書き上げましたか?

僕の中ではあんまりかからなかったんです。何稿書いたかな?5,6稿。

―俳優さんたちもそうそうジェンダーを扱った映画に出るわけではないでしょうから、きっとこの作品で知識が増えて勉強になったのでは?

片山さんはこの役をやるとなったときに、最初に勉強しなきゃと思ったそうです。やっぱり知らないことなので。役としてどうするという以前に「知る」というところからスタートしたというお話はしていました。
(宣伝・高木 片山友希さんがおっしゃっていたんですけど、「監督の“性同一性障害の診断書”を常に読み返していました。そのほうが、いろんな本を見るよりはきっと気持ちが理解できるだろうから」って)

―ユイは知らないで好きになってしまうわけですけど、坂東龍汰さんは初めてトランスジェンダーの役をしなければいけないので、もっと大変だったでしょうね。ラストもあるし。

ラストもあるし(笑)。
(宣伝・高木 坂東さんも撮影に入る前から監督といろいろ議論もされていたそうです)
そうそう。

―ラストは脚本ができたときから決まっていましたか?

決まってなかったですね。とにかく僕が思っていたのは、他にはない「二人だけの世界」を作りあげる…それは他の人にとっては幸せでないかもしれない、でも2人にとってはほんとに幸せなんだと。2人の”オリジナルの幸せ”にたどり着く…そのゴールだけは見えていたんです。
僕が映画を作っていく中で、”いろんな幸せの可能性を見たい”という思いがものすごく強くありまして。それは今までの映画にさんざん描き尽くされている幸せを、またこの映画の中で描いてもそれはもう描きなおしでしかなくて、あまり意味がないと思っていました。僕はあのラスト、“希望”だと思っているんです。あのシーンをツボだと言った方もいらしたので、観た方々によって感想は違うと思いますけど。

―ここで終わりか、と思ったシーンがありました。そこはこれまでならラストになるシーンですが、その先がありました。え、と思ったけれど、これは新しいかなと。
キャストの皆さんと話し合いながらあのラストになったんですね。


ふつうはあそこで終わりますね(笑)。僕自身の観たい世界がどうしてもあって。肉体で決められている性とかいうものに、やっぱり人は縛られて生きていると思うんですよ。女性の身体を持っているから貴女は女性。女性らしい身体を持っているから自信が持てますよ、みたいな。逆に男性らしい肉体を持っているから男性で。
だけどこれからは、「どんな肉体・容姿を持っていても、精神は自由になっていかねばならない」と思っていて。最後真也が選択した方法は、言葉で言うと頭の理解が追い付かないかもしれないんですが、男性として誇りを持っての行動なんです。僕は次の時代の幸せの形になりうるんじゃないかなと思います。

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―世の中が少しずつ進んできましたが、監督は望んだ生活ができていらっしゃいますか?

いち当事者としてですか? 映画の中にもありますが、保険証には性別が書いてあるんです。僕は戸籍を変更していません。変更するためにはいろんな手術をしなくてはいけないんです。身体の自由はやっぱり守らなきゃいけない、そして精神も自由でありたいというどっちもセットの自由が必要だと思っています。身体にメスを入れなければ男性と認められないなんて変な話なんですよ。
女性と書いてある保険証を病院で出しますと、まず「あなた誰ですか?」っていうところから始まる。お役所とかもそうですけど。そういうところで躓くことが生活の端々であります。

―これからだんだん周知されていけばわかってもらえるようになるんじゃないでしょうか?数がまだ少ないからだと思います。

数、はあると思います。映画は群馬という設定なので、まだ病院で名前を呼ばれてしまっていますが、都内だと人口が多い分、トランスジェンダーの方に接する機会が多いのか、配慮が進んでいます。必ず苗字だけで呼ぶとか、最初に書く問診票の性別欄に「女性、男性、その他の性」という項目があったりとか、それは都内の方が多い気がします。地方との差は感じます。
困っていることは殆どないですけれども、これからパートナーと結婚したいとか、その時々によって問題は起きてくるかもしれません。何が待っているかはなってみないとわからないです。

―この映画の後のご予定は?

長編一本の編集が終わったところです。90年代にものすごい人数のフィリピンから出稼ぎの人たちが来日して、日本人と結婚して生まれた子どもがたくさんいます。今度はフィリピンハーフの男の子の話です。

―楽しみにしています。今日は長時間ありがとうございました。
(まとめ・監督写真 白石映子)

★飯塚監督の自伝的作品『僕らの未来』はU-NEXTで配信中

=取材を終えて=
初めてお目にかかった飯塚監督は明るくてとてもよく笑う方で、脱線してしまう私にも丁寧に答えてくださっておしゃべりが弾みました。今日は私の「知る」の第1歩です。
イザナギ・イザナミのお話をネットで探してみましたら、日本書紀より古事記の「国生み」の話が近かったです。思えば子どものころからステレオタイプな男女、家庭像、夫婦像を幾度となく刷り込まれてきたのですが、それは神代の昔からだったわけです。
その長い歴史に抗うことは並大抵ではありません。多様性がやっと話題にのぼるようになったこのごろ、マイノリティの方々が暮らしやすい社会はマジョリティにも居心地がいいはず。年取るにしたがって、誰もがマイノリティになりますから。
芝生で遊ぶ子供がレインボーフラッグ(LGBTの旗)を掲げて走っているシーンがあります。LGBTの方々をはじめ、誰もが人間として尊ばれ、生きていける世の中をそれぞれが作っていかなくては、と思いました。(白)

あなたの街にも香川1区があるかもしれない~『香川1区』大島新監督インタビュー

『香川1区』は2021年秋に行われた第49回衆議院議員総選挙で香川1区に焦点を当てたドキュメンタリー作品です。衆議院議員・小川淳也氏(50歳・当選5期)の初出馬からの17年間を追い、キネマ旬報ベスト・テンの文化映画第1位を受賞し、ドキュメンタリー映画としては異例の大ヒットを記録した『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020)の続編的位置付けとして、いまや全国最注目といわれる「香川1区」の選挙戦を与野党両陣営、各々の有権者の視点から捉えています。
大島新監督に作品について語っていただきました。

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――『なぜ君は総理大臣になれないのか』がとても面白かったので、本作もとても期待しておりました。拝見してみると想像していた以上に面白く、156分があっという間でした。

そういっていただけるとほっとします。私はせっかちなので、自分がお客さんの立場だったら2時間を大幅に越える作品は遠慮したい(笑)。大分長くなってしまったと思いつつ、でも自分たちとしてはぎゅうぎゅうに要素を詰めたのです。

――もともとは4時間超えだったそうですね。

最初の編集では4時間11分でした。編集担当者と(プロデューサーの)前田(亜紀)と私、監督補の船木の4人で何度も試写を繰り返して短くし、自分たちなりに何とか3時間くらいにはしたのですが、そこから先が進まない。そこで初見の宣伝の担当者や劇場支配人に見ていただいて意見をうかがい、4、5日寝かせてからまた編集を進めました。

――第49回衆議院議員総選挙は10月31日に行われ、年内に東京の3館で先行上映されました。編集期間が短くて大変だったのではありませんか。

年内の公開はポレポレ東中野さんとの約束で、投開票日から2カ月以内に出そうという話になっていました。

――お約束の段階では代表選があることは想定していませんよね。

それはまったく考えていなかったので、正直、まいったなと思いましたね。ただでさえきついスケジュールがさらにきつくなってしまったのは予想外でした。しかし、話題が続いていくし、ドキュメンタリーとしては面白い展開になったと思います。

――総選挙が終わって、「さあ編集!」と始めたところに代表選と言われたわけですね。

選挙中から撮った映像を編集担当者に渡して編集を始めてもらっていたので、同時進行ではありました。

――選挙に勝った場合と負けた場合で作品の流れがかなり変わってくるかと思いますが。

もちろん結果によって前半の構成が変わってくる場合もありますが、そういうことはあまり考えなかったですね。ドキュメンタリーで結末が分からない仕事は山ほどやってきていますから。
何が起きるかわからない。起きたところで考えればいい。そこに対応していくしかないという感じです。

――本作は『なぜ君は総理大臣になれないのか』の頃から撮ろうと考え始めていたのでしょうか。

小川淳也さんのことは公開するかどうかは別として、その後も取材は続けようと思っていました。もともとは彼の人物ドキュメンタリーですから。ただ、次があるとしても5年か10年というスパンで考えていました。そもそも、『なぜ君は総理大臣になれないのか』がここまで反響を呼ぶとは思っていなかったのです。
ところが2020年9月に菅内閣が発足して、平井卓也さんがデジタル改革担当大臣という看板大臣になられた。同じ時期に小川さんは新しい立憲民主党の所属になり、そのときに報じられてはいませんが、代表選挙に出ないかという声があったんです。しかし彼は比例復活当選なので、そういう立場にないとして見送ったということがありました。やはり選挙区で勝っていないとダメなんですよ。ですから次の選挙は小川さんにとって、今まで以上に重要になりました。しかも若いころから50歳を過ぎたら身の振りを考えると公言していましたから勝負どころです。平井さんと小川さんはとても対照的な候補者なので面白い。香川1区は注目されるなと思ったのです。
また個人的には自民党の強さって何だろうという気持ちがありました。自分が投票した候補者が勝ったことがない。私は東京8区ですが、今回、初めて勝ちました。そんな感じなので、自民党はなぜ強いのか。小川さんが戦っている相手の強さは何なのか。これもすごく大きなモチベーションになりました。両陣営、特に有権者をちゃんと捉える。そんな映画ができないかと思い始めたのが本作のきっかけです。

――今回は小川さんだけに焦点を当てるのではなく、香川1区の選挙戦を与野党両陣営、双方の有権者の視点から捉えています。前作の続編というには視点がちょっと違いますが、続編という認識でよろしいのでしょうか。

はい、それで構いません。お付き合いの長さがありますから“小川さんの挑戦”という軸はありますが、それに加えて、いろんな陣営を取り上げたのです。

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――新しい政治を目指す小川淳也、それを後押ししている大島監督。古い日本の政治を体現している平井卓也、それに関わるオールドメディアの四国新聞記者といった構図が見えた気がしました。

もちろんこれまでのお付き合いがありますから、小川さんには好意を持っていますし、信頼もしています。一方で平井さんにもインタビューしましたが、おっしゃっていることに平井さんなりの理があると思いましたし、自民党を支持している方にも当然、何らかの事情や思いがあることは理解できます。ですから取材者としては両陣営をフラットに撮らなければいけないと思っていました。しかし、前作まで私は取材者であり、記録者でしたが、前作を撮ったことで、小川さんの陣営に行けば、「映画のお蔭で」と言われ、平井さんの陣営に行くと「映画のせいで」と言われ、ある種の当事者になってしまったのです。
ですから対立を浮かび上がらせたいという意識はまったくなく、むしろどちらの思いもちゃんと記録して伝えたかったのです。それが平井さんの側があのような対応になってしまった。それを素直に見せただけで、狙いがあったわけではありません。

――平井さんの政治資金パーティー券に関すること、期日前投票のことについて取り上げていましたが、その内容に驚きました。

取材期間中に話が持ち込まれたのですが、パーティー券に関して言えば、告発者の方がやむにやまれぬ思いで話をしてくださったんです。「地元のメディアに話しても握りつぶされるだけだろう。大島監督であれば何らかのことを講じてくれるにちがいない」という思いだったそうです。もちろん私たちなりに裏を取らなくてはいけませんし、そういった作業をした上で、これは社会的に世に出す意味があるという判断をしました。

――“小川さんはいい人、平井さんは悪い人”のように見えてきてしまいました。

それに関しては残念でしたよね。平井さんにはもっとカッコよくいてほしかったと思いました。

――平井さんからPR映画だと言われ、監督が平井さんに話をしに行かれました。前作と比べて、本作は監督の感情の起伏も作品に現れている気がしましたが、いかがでしょうか。

それはあるかもしれませんね。ただカメラが入ったり、編集をしたりしている時点で絶対に作り手の意図は入る。完全にフラットな状態というのはないと思っているので、介入度合いの見え方の差だと思います。私の視点で切り取っている映画ですから、感情の起伏が作品に現れていても抵抗はありません。

――町川順子さんの扱いが少ない気がしました。

選挙区における存在の大きさがまったく違うので、当然だと思います。
テレビは放送法があるので同じようにしなくてはいけませんが、今回は映画なので自分が撮りたいものを撮るだけ。テレビ的な“公平中立”ということにとらわれる必要もありません。
テレビの報道は仕方ないのですが、そういうことに縛られているからつまらないのですよ。私はテレビではできないことをやろうと思っていました。

――町川順子さんが維新の会から出馬することを表明した際、小川さんが出馬取り消しを要請しました。そのことについて、政治評論家の田﨑 史郎さんからひとこといただいたときの小川さんの激高ぶりに驚きました。これまでの小川さんとは違うような気がします。

私も驚きましたね。ああいった姿はこれまで見たことがなかったですから。ただ今から思えば、あれはとても彼らしい。思い詰め過ぎてしまったんです。
それは小川さんだけでなく、平井さんもそうですよね。8月に取材したときは平井さんにも余裕があって、お話もしてくださいましたが、情勢調査で小川有利と出てくるとネガティブキャンペーンを始めました。
今回、改めて、選挙のプレッシャーは本当に人間をむき出しにさせるなと思いました。小川さんは毎回、選挙で厳しい戦いをしていますが、今回は特にそうでした。だからあんな感じになってしまったのかなという気がします。

――撮影していてもこれまでの選挙とは違うのを感じましたか。

感じましたね。今回の選挙で6期目になりましたが、5期目とそれ以前では周囲の期待値がまったく違います。国会の質疑に立ち、“統計王子”と呼ばれて世間の注目が集まったことに加えて、映画の公開でも注目が集まった。今回の総選挙は絶対に負けられないというプレッシャーがかなりのしかかったのだと思います。
しかもこれまでは解散が急で、選挙まで1ヶ月くらいで考える暇なく走るしかなかったんです。それが今回は3ヶ月くらいではないかと言われていたのが、結局4ヶ月くらいになった。だからじっくりと選挙運動をしていたところに、急に維新の会から候補が出てきて、混乱したんでしょうね。

――2003年に初めて会ってから2021年11月で足かけ18年。小川さんにずっとカメラを向けてきたわけですが、監督からご覧になって小川さんの変わったところ、変わらないところはありますか。

ここ数年、周囲が小川さんを見る目が変わったのは感じますが、小川さん自身は変わっていないですね。年齢に応じて成熟した部分はあるかもしれませんが、ここが大きく変わったというところはないですね。

――ドキュメンタリーは事実を追い続けて、並べるだけでは成立しません。そこには人間ドラマがあります。しかも、『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』の2作品にはエンターテインメント性もあります。エンターテインメントとして成立させるために何か工夫をされているのでしょうか。

私はいつもドキュメンタリーとして面白いものを目指しています。面白くないと社会的な意味があっても広がりませんから。私なりに構成、取捨選択、並べ方を考えていますが、それが工夫と言えるのかどうか…。

――公開前に50館以上での上映が決まっていました。ドキュメンタリー映画としては異例のことですが、それだけ期待が大きいのだと思います。そのことにプレッシャーは感じませんでしたか。

劇場側は前作に対する期待値で決めてくださったと思います。だから前作より見劣りするものは作れないと思っていました。しかし、途中から“前作とは違う後味の作品になりそうだな”と思えてきたので、前作は意識せず、自分が信じた方向に向かって作っていこうと考えました。

――公開初日を迎え、手応えはいかがでしたか。

ポレポレ東中野で舞台挨拶をして、サイン会もしたのですが、大勢の方に並んでいただきました。うれしかったですね。声を掛けてくださる方の怒りや涙、どう捉えていいのかわからない動揺など、感情がすごく揺れたのを感じました。またTwitterなどの投稿を見ても確実に伝わっているなと思いました。今回の映画はいろんな要素が入っていたので受けとめ方は人によって違うと思いますが、手応えは確かにありました。

――次も小川さんの映画でしょうか。

前作と本作はスパンが短くて、かなり走り抜けた感じがあります。『香川1区』は始まったばかり。前作のように広がっていくのか、どんな化学反応を生むのか。まだわかりません。
また映画は見た人たちが育ててくれる。前作でそれを感じました。今回もきっとそういうことがあるのではないかと思います。まずはそれを受け止める。それから次に何を撮るのか、小川さんを撮ることを含めて、考えたいと思っています。

――他の作品を撮りつつ、取材だけは続けていくというのもありですよね。

30代の頃はバッターボックスに立つことがすごく大事と思い、いろんなところに取材に行き、いろんなものを作っていましたが、もう50代です。1本1本、身を削りながら作るところがあるので、気力体力が30代と同じようにはいきません。しかも自分自身が作ってきたものがハードルを上げている。「はい、次回作はこれです」とはなかなか簡単には言えないですね。

――見る側としたら小川淳也三部作にしていただけるとうれしいですけれど…。それでは最後にこれからご覧になる方に向けてひとことお願いいたします。

政治家を主人公にしている映画ではありますが、有権者の映画でもあります。あなたの街にも香川1区があるかもしれない。そういう視点でご覧いただけたらうれしいです。

<プロフィール>
大島新
ドキュメンタリー監督、プロデューサー。
1969年神奈川県藤沢市生まれ。
1995年早稲田大学第一文学部卒業後、フジテレビ入社。
「NONFIX」「ザ・ノンフィクション」などドキュメンタリー番組のディレクターを務める。
1999年フジテレビを退社、以後フリーに。
MBS「情熱大陸」、NHK「課外授業ようこそ先輩などを演出。
2007年、ドキュメンタリー映画『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』を監督。同作は第17回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞を受賞した。
2009年、映像製作会社ネツゲンを設立。
2016年、映画『園子温という生きもの』を監督。
2020年、映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』を監督。同作は第94回キネマ旬報文化映画ベスト・テン第1位となり、文化映画作品賞を受賞。2020年日本映画ペンクラブ賞文化映画部門2位、第7回浦安ドキュメンタリー映画大賞2020大賞、日本映画プロフェッショナル大賞特別賞を受賞した。
プロデュース作品に『カレーライスを一から作る』(2016)『ぼけますから、よろしくお願いします。』(2018)など。
文春オンラインにドキュメンタリー評を定期的に寄稿している。

『香川1区』
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監督:大島 新
プロデューサー:前田亜紀
撮影:高橋秀典
編集:宮島亜紀
音楽:石﨑野乃  
監督補:船木 光
制作担当:三好真裕美
宣伝美術:保田卓也
宣伝:きろくびと
配給協力:ポレポレ東中野
製作・配給:ネツゲン
2022年 / 日本 / カラー / DCP / 156分
© 2022 NETZGEN
2021年12月24日より東京・ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋にて緊急先行公開中
2022年1月21日(金)より全国公開
公式サイト:https://www.kagawa1ku.com/

シネマジャーナルスタッフの大瀧幸恵さんが『香川1区』の作品紹介をしています。
ゆきえの”集まれシネフィル!”
https://cinemajournal1.seesaa.net/article/484861778.html