『Maelstrom マエルストロム』山岡瑞子監督記者会見

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山岡瑞子監督(オフィシャル画像)

11月21日、日本外国特派員協会にて『Maelstorm マエルストロム』の試写と山岡瑞子監督の記者会見が行われました。
(以下オフィシャルレポートより)

2002年NYの美大を卒業してすぐ交通事故で脊髄損傷により下半身付随となる大怪我を負い、突然それまでの日常を失った山岡監督。自身のパーソナルな題材を描こうと思ったきっかけについて聞かれ、「この状況を描かなければいけないと思ったきっかけは、脊髄損傷者のNPOで事務の仕事をしていた頃、亡くなった方のお名前を会員リストから削除する作業が私の担当で、静かに亡くなっていく人々を常に感じる日常の中で、ある戦う女性を主人公にしたアメリカ映画を観ました。試合中にバランスを崩した彼女が、打ち所が悪くて頸椎を損傷してしまいます。その後彼女を安楽死をさせるというエンディングでした。厳しい状態でも生きるヒントが欲しいと思って観に行ったのに、死刑宣告をされたように感じました。この状態で生きたことのない映画を作っている人達に、気安く終わりにして欲しくないと思い、自分なりに作ってみたいと思うよう
になりました」と明かしました。

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更に「自分がこれからどうしていきたいかと悩み、デンマークに10か月間留学した時、映像制作に出会い撮影させて頂いた脊髄損傷患者の方から『外に出ていって、人に出会い、同じ人間だと理解してもらう責任が我々にはある』と言われ、私も、同じ怪我をした人の中にいるのではなく、人に出会っていく生き方に変えよう、と思いました」と語り、車椅子で外に出ていく中で苦労した経験についても「通らなければいけない道だと思っていました。事故は別に理由もなく起きて、損傷部位の位置でその人の障害のレベルは決まり、その客観的事実を医師から宣告されます。そこで感傷的になって、ただ泣いているだけだったら何も進まない。そういう現実を我々は生きているわけです」と、当事者として本作を描いた覚悟をのぞかせました。

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多様な喪失が描かれていることについては「映画を作ると決めてから、カメラを持ち歩くようになりました。そうしたら不思議と色々なものが変化していったんです。私たちの生活はこうやって喪失を繰り返し、そういう事態を経験するにつれ、私達の生きている時間で、過去と同じ時間は一瞬もないということがわかりました。」と話し、「自分のこれまで考えてきたことを、それぞれの時代の最低限の言葉で記録に残すということを、まずやり遂げることが大事でした。完成するまで5年半ずっと、夜中に周囲の音が静かになった時に、自分の部屋で自分の声をレコーディングしては書き出し、ナレーションを書き直しては何度も同じことを繰り返しました。二度とあの生活はしたくないです(苦笑)」と製作の苦労を語りました。

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また、製作の原点について「私が表現者に戻りたくて、それは私がアートやアーティストの人達との時間で救われたという気持ちがあったからです。留学時代の恩師から、アーティストの役割というのは社会に問いかける存在だと教わりました。それは答えを押し付けるのではなくて、『こういうことがあるけど、皆さんどう思いますか?』と、提示する役割だと私は理解したんです。」と打ち明けた。
最後に「事故は私たちの日常に繋がっています。私は20年ぐらい車を運転していますが、目の前で自動車と自転車の事故を4〜5回見たことがあります。そのぐらい私たちの日常に繋がっているのに、その後に何が起こるのか、みんな知らないままです。たまに過剰に可哀想がったり、逆に無理難題を要求して来る人もいて、そういうものをちょっとずつ壊していけたら良いかな、と思っています」と語り、記者会見は終了しました。

●12月2日(土)~8日(金)横浜シネマリンにて公開
 〒231-0033 横浜市中区長者町6-95
 TEL  045-341-3180
 https://cinemarine.co.jp/
●『Maelstorm マエルストロム』山岡瑞子のアート・ワークス
 映画に登場する山岡監督のアート作品の展示
 12月2日(土)~10日(日)13:00~18:00
 高架下スタジオSite-Aギャラリー
 横浜市中区黄金町1-6番地先 
 TEL 045-261-5467(黄金町エリアマネジメントセンター)
 https://koganecho.net/spot/site-a

★作品紹介はこちらです(白)。

映画『ハント』 イ・ジョンジェ監督記者会見

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これまで数々の映画やドラマに出演してきた名優イ・ジョンジェが、初監督を務め、脚本も執筆し、盟友チョン・ウソンとダブル主演した映画『ハント』が、9月29日より公開されるのを前に来日。初監督作品への思いを語りました。

日時:8月31日(木)
場所:T・ジョイ PRINCE 品川
登壇者(敬称略):イ・ジョンジェ  
MC:奥原レイラ

MC: 本日は映画『ハント』記者会見にお越しいただきましてありがとうございます。
「イカゲーム」でも世界的スターとなりましたイ・ジョンジェさんの初監督作品です。
盟友チョン・ウソンさんとダブル主演を果たしたことでも話題になっている作品です。韓国公開時には初登場1位を獲得。第75回カンヌ国際映画祭ミッドナイトスクリーニングで上映され喝さいを浴びております。
舞台は1980年代の韓国。安全企画部に属するイ・ジョンジェさん演じる海外次長と、チョン・ウソンさん演じる国内次長が、組織内に入り込んだ北のスパイを探し出す任務を命じられ、探し出せなければ自身の身が危ないという手に汗握る作品です。
監督を務められ、主演もされましたイ・ジョンジェさんをお迎えしたいと思います。どうぞお入りください。

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軽やかながら、緊張した面持ちで登壇するイ・ジョンジェ氏。

MC: よくお越しくださいました。まずは皆さまにご挨拶をいただけますでしょうか・

イ・ジョンジェ:(日本語で)こんばんは。イ・ジョンジェです。よろしくお願いします。

MC:
来日は何年ぶりになりますか?

ジョンジェ:コロナになる前に来ましたので、約3年半ぶりだと思います。

◆初監督して気づいたこと
MC:いくつか代表質問をさせていただきます。初監督作品ですが、普段俳優業をされていることとの違いですとか、監督をされて気づかれたことを教えてください。

ジョンジェ:俳優だけの時は、キャラクターにひたすら集中することができますが、演出を兼ねると、本当に様々なことをチェックしなければなりませんし、悩まなければなりません。また様々な判断や決定をしなければならいないことが多くありました。色々な意味で違いがあると思いました。
撮影現場はこれまでも長い間経験してきましたし、同時に演出家の方々とも親しくお付き合いをさせていただく中で、監督の悩みを聞いたり、一緒に悩みを分かち合ったりしてきましたが、いざ自分が演出をしてみるとなると、俳優だけに専念している時とは違うなという風に思いました、

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◆伝えたかったことが世界の皆さんに届いた!
MC:作品を4年間温めてこられて、激しい銃撃戦やアクションシーンもほんとに見事でした。カンヌ国際映画祭やトロント国際映画祭など世界中の映画祭で上映され話題になってきましたが、お客様の反応はご覧になっていていかがでしたか?

ジョンジェ:シナリオを書いている段階から、国際映画祭に出品できればいいなと思っていました。もちろん、自分の作った映画を海外の映画祭に出品したいという個人的な希望だけでなく、この映画を通して伝えたかったテーマやメッセージが、韓国の観客だけでなく、様々な国々の観客の方たちに届いてほしい、そして、その観客の方達と一緒にコミュニケーションを取って話したいという思いが強くありました。
この映画では誤ったイデオロギーがテーマとして描かれています。そのテーマに対する悩みをずっと持ちながら色々考えながらこの作品を作り上げていきました。海外の映画祭に招待されたことによって、本当に多くの海外の方々と触れ合うことができました。
カンヌ国際映画祭だけでなく、トロント国際映画祭、シッチェス映画祭などで記者の方々や映画人の方々と一緒にこの映画について様々なことを語り合うことができたんです。公開される前にすでに映画祭に招待されることによって、多くの皆さんと出会うことができたのですが、公開される前に、私の気持ちの中では既に、この映画を作って本当に良かったなぁと思えました。
それだけ多くの皆さんに共感していただくことができたので、僕にとってはこの映画が伝えたかったストーリーを皆様に届けることができて、それが本当に意味のあることだなと思えたのです。


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●会場より質疑応答

◆チョン・ウソンとは親しいだけに遠慮も
ー 初監督作品で盟友のチョン・ウソンさんを主演に抜擢された経緯をお聞かせください。また、監督と演技者として、仲が良いだけに演出する時にやりづらかった事や、かえって良かったことはありますか。

ジョンジェ:チョン・ウソンさんとは、1998年に『太陽はない』という映画でご一緒しています。その時以来、本当にいい思い出として私の中にあったので「2人で早くまた違う作品で一緒にやりたいね」という話をずっとしていました。そのために、シナリオをいただいたり、一緒にシナリオを共同で開発したりということもしていましたが、なかなか上手くいかなかったんです。そうこうしている内に私の方で『ハント』のシナリオを書くことになって、これ以上遅くならない内にぜひ一緒にやりましょうと言って、キャスティングさせていただきました。
親しいからこそ、撮影現場で大変だったことがあるとすれば、なぜか親しいせいか、むしろ何かをお願いするのがためらわれた感じがあったことです。
例えば撮影の最初の方では「もう1回撮影しましょう」と中々言い出せませんでした。自分からお願いをしているような感じがしたんです。なので、初日撮影を終えた後に早くこのぎこちなさを解消しなければならないと思って、次の日からは僕がこれまで考えてきたシナリオを書いていた時に考えていた表現やテンポについて全てチョン・ウソンさんにお話しました。説明を十分にしたところ、快くそれを受け止めてくれて、撮影現場では本当に助けてもらったと思っています。

◆チョン・ウソンを最高にかっこよく見せたかった
ー イ・ジョンジェさんとチョン・ウソンさんが演じた二人の男は二重スパイを探すという役柄で、背景に違いはありますが、お二人のどちらがどちらを演じられても良さそうだと思いました。配役についてはどのように決められたのでしょうか。

ジョンジェ:チョン・ウソンさんはとてもヒューマニズムのある方で、折り目正しく多くの方達にいいイメージを持たれている方です。普段から多くの人たちと心を分かち合う、そんな方として知られています。そんなイメージを持ったチョン・ウソンさんの魅力を、最大限にこの映画の中でキャラクターとして引き出したい、表現したいという気持ちがありました。
ウソンさんのキャスティングが決まってからは、ウソンさんのそんな面を深く見せたいという思いがありましたので、シナリオのキャラクターをよく活かすためにシナリオの修正を加えていきました。
もちろん2人の役を入れ替えることもできたと思うのですが、ウソンさんが本来持っているその姿に最も今回よく似合うキャスティングになっていると思いますし、またその最もよく似合っているキャスティングを最大限に引き出す役どころとして表現したいと思っていました。


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◆「イカゲーム」でブレイクし信じられない思い
ー 3年半ぶりの来日とのことですが、その間に「イカゲーム」の大ヒットや「スター・ウォーズ」スピンオフへのご出演決定など目まぐるしかったと思います。どのようなお気持ちで激動の日々を過ごされていたのかお聞かせください。

ジョンジェ:これまでも作品には、絶えず一生懸命ベストを尽くして取り組んできたのですが、そこについては変わったことはないと言えると思います。そんな風に一生懸命作品を撮り続けてきたところ「イカゲーム」という作品で、多くの国の方々から人気を博すことになるという大事件が起きました。
アメリカでは大きな賞をたくさんいただきましたし、僕にとってもこんなに大きな福がもたらされるのは信じられない気持ちでした。どう受け止めていいかわからないくらい、自分にとっては実感の湧かない現実味のない状況でした。
そんな中、『ハント』の公開を韓国で準備している最中に『スター・ウォーズ』のキャスティングのオファーがありました。でも、そのことは誰にも言ってはならないと言われていましたので、私以外ではマネージメント事務所のおそらく1人か 2人だけが知っている状況で、秘密を維持しながら『ハント』が公開されました。
『ハント』で様々な海外の映画祭にも行かせていただき、そんな中『スター・ウォーズ』の撮影のクランクインが近づいていたのですが、本当に同時進行で様々なことをしながら『スター・ウォーズ』の作品の準備に取りかかり、セリフも覚えなければなりませんでしたし、体も鍛え、役作りについても色々考えなければなりませんでした。
アメリカで大きな賞をいただき、本当に目まぐるしい状況がずっと続いていたので、時間がどんな風に過ぎていったのかわからない感じがあったんです。
今の状況をお伝えしますと『スター・ウォーズ』を撮り終えまして、また『イカゲーム』の撮影をしているところです。『スター・ウォーズ』は来年公開を予定しています。『イカゲーム』は来年下半期、または再来年初めを予定しています。
また作品が公開されましたら、プロモーションで忙しくなると思います。つまり、忙しさが延々と終わっていない状況が続いているんです。個人的には本当に嬉しいこと、いいことだなと思っていますし、こんな時こそもっと体調管理もしっかりしなければなと思っているところです。

MC:こんなお忙しい日々の中、お越しいただきまして、あらためてありがとうございます。

フォトセッション

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★記者会見後に開かれたジャパンプレミアの模様はこちらで!
映画『ハント』ジャパンプレミア  イ・ジョンジェ 初監督作品への思いを日本のファンに語る


写真は、facebookアルバム イ・ジョンジェ初監督作品『ハント』記者会見&ジャパンプレミアもご覧ください。
https://www.facebook.com/media/set/?set=a.791557082971879&type=3

報告・撮影:景山咲子





ハント  原題:헌트  英題:HUNT
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© 2022 MEGABOXJOONGANG PLUS M, ARTIST STUDIO & SANAI PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

監督・脚本:イ・ジョンジェ
出演:イ・ジョンジェ、チョン・ウソン、チョン・ヘジン、ホ・ソンテ、コ・ユンジョン、キム・ジョンス、チョン・マンシク

1980 年代、安全企画部(旧 KCIA)の海外次長パク(イ・ジョンジェ)と国内次長キム(チョン・ウソン)は組織内に入り込んだ"北"のスパイを探し出す任務を任され、それぞれが捜査をはじめる。
二重スパイを見つけなければ自分たちが疑われるかもしれない緊迫した状況で、大統領暗殺計画を知ることになり、巨大な陰謀に巻き込まれていく・・・

2022年/韓国/DCP5.1ch/シネマスコープ/韓国語・英語・日本語/125分/PG12
字幕翻訳:福留友子・字幕監修:秋月望
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx.com/huntmoviejp
★2023年9月29日(金) 新宿バルト9ほか全国ロードショー



『AWAKE』完成報告会見

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12月8日(火)、グランドハイアット東京にて『AWAKE』完成報告会見が開催され、キャストの吉沢亮、若葉竜也、落合モトキ、山田篤宏監督が出席。ピカピカの【新電王手さん】も登場しました。ほぼ書き起こしでお届けします(聞き取れなかったところは省略)。(司会:いとうさとり)

―まずは一言ずつご挨拶をいただければと思います。清田英一を演じられました吉沢亮さんです。
吉沢 ありがとうございます。清田英一を演じさせていただきました吉沢亮です。初めてこの脚本を読ませていただいたときから、すごく大好きで思い入れのある作品だったので、着々とこう皆様にお届けできる日が近づいていることにドキドキしています。今日は最後までよろしくお願いいたします。(拍手)

―英一のライバル浅川陸を演じられました若葉竜也さんです。
若葉 初めまして、若葉竜也です。このようにたくさんの記者の方々に集まっていただき、ほんとに嬉しく思っています。もうすぐ、こんな時期なのに公開できるということで、すごく嬉しく思っています。よろしくお願いいたします。(拍手)

―英一の大学の先輩磯部達也を演じられました落合モトキさんです
落合 初めまして、落合モトキです。こうやって完成報告会見を今日開けるということで、まずこの作品は一歩前に勧めたんじゃないのかなと思います。25日公開できるように願うばかりです。今日はよろしくお願いします。(拍手)

―監督・脚本を手がけられました本作が商業映画デビューとなりました山田篤弘監督です。
監督 初めまして、山田篤弘と申します。今日はお集りいただきましてありがとうございます。素晴らしいキャストとスタッフで、とても自信を持ってお届けできるエンターテイメント作品になったのではないかと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)

=演じた役柄=

―吉沢亮さんにお伺いしたいと思います。本作が発表されたときに、これまで出演した映画の中でかなり好きという風におっしゃっていたと伺っておりますが、どんなところが特に惹かれたんでしょうか?
吉沢 やっぱり最初に読ませていただいた脚本がものすごい面白くてですね。商業映画でAIを使っている映画なので難しいのかなぁという思いもあったんですけど、全然そんなことなく「ど直球」のエンターテイメントで。メッセージ性とかもわかりやすいし、すごく爽快感のある青春ストーリーになっていて面白い。完成した作品を観て、なんですかね。今まで自分の出た作品って冷静に観れずに、わりと自分の芝居のイヤな部分ばっかり目立っちゃって。今回は自分の芝居がどうこうじゃなく、単純にすごい面白いなあと思った。すごくいい作品ができたな、それに参加できて良かったなと最初に思ったので、この作品は自分の中では新鮮な感じでしたね。出来上がったものを見てすごい好きでした。はい。

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―将棋の棋士を目指す英一の目線から動きからも「わ、ほんとに棋士の人みたいだ」と見ていたんです。そこは準備されたことが結構あったんじゃないですか?
吉沢 とにかく英一という人間はちっちゃいころから将棋しかやってこなくて、将棋以外のことを何も知らないというか、将棋以外こいつは何も持っていないんだというものを全面的に出したくて。撮影始まる前に太ってみたりとか、姿勢から将棋を指しているときのちょっとした体の揺れとか表情の変化とか、いろいろ現場で工夫しながらやってましたね。

―そんな英一のライバルになります天才棋士を演じられた若葉さんに伺いたいと思います。圧倒的な天才棋士ということで、台詞もすごく少なくて、ほぼ無口だったと思うんですけれども、今回演じるにあたってご自分で肌で表現することとかいろいろ準備されたことがあるんじゃないでしょうか?
若葉 やっぱり棋士の方々の指し手とか所作とかというのは、絶対条件として、身体に落とし込まないといけないなと思ったので、そこは気をつけました。
―どんなことをリサーチされたんですか?
若葉 最初に子どもたちの将棋を見に行って、その後に映像でプロの棋士たちの立ち居振る舞いを見て、そこでアマチュアからプロになっていく段階でのサインみたいなものを見たりとか。もちろん指し手が一番たいへんでしたけど。彼らの歴史が詰まっているので、そこを軽んじて演じることはできないなと思いましたね。

―続きまして落合さんに伺いたいと思います。今回英一の先輩の磯野という役ですけれども、この二人とは違って非常に早口の専門用語を使うということで、台詞もすごく多かったと思うんですけれども、監督から何か演出を受けたこととか、ご自分で意識したことはどんなことでしょうか?
落合 衣装合わせで監督と初めてお会いしたときかな?そのときに「どういう形で演技しましょうか?」という話をしたときに、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクをイメージしてやってくれ」という風に言われて、「こっちではカタカタやりながら、こっちは全然別のことをまくしたてて言ってるみたいな感じ」のことを言われたので、確かにそうなんだろうけど、台詞が専門用語過ぎてたいへんだなぁと。でもなんていうんだろ、考えて覚えるというよりも、呪文のように覚えるといいんだろうなと思って、自分が演技してきた中でも「考えないで物事を言ってた」というのに近いかもしれないですね。

―それを横で吉沢さんはごらんになっていたわけですよね。
吉沢 はい。めちゃめちゃ大変そうでした。聞いたこともない単語をずっとペラペラしゃべっていて、すごい早口だし。それが全然違和感なく落とし込まれている感じがやっぱりすごいなぁと思いました。台本読んだときの磯野と、モトキ君が演じた磯野って僕の中ではギャップがあったんです。なんか想像の斜め上をいくなぁと思ったんですけど、それがすげー面白くて、英一といるときのバランス感とか、なかなかおもしろいことになったと思いますね。
落合 そうですね。わーーって羅列したことを言ったときに、亮君がその後の台詞で「わかりました」っていう台詞があったんですけど、その台詞も亮君がつきあってくれたりして。前から亮君のファンだったので、ほんとにいいお兄ちゃんだなと思いながら現場にいました。(吉沢「いやいや」と手を振る)

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―さて、監督に伺いたいと思います。2015年に実際にあった「電脳戦 ファイナル」の対局がモデルになっていると伺っています。この対局をご覧になって、どんなところから映画にしたいと思われたんでしょうか?
監督 2015年の「電脳戦 ファイナル」という対局自体がドラマチックな対局でして。何がドラマチックだったかというと、開発者が元奨励会員であって、プロになれなかったけれども開発者としてもう一度プロと戦うという。前提そのものも魅力的だったんですけれども、その後の実際の対局の顛末も非常にドラマチックなものでした。それを見たときにもうこの二人・・・実際の二人は顔見知りではなかったんですけど・・・この二人が小さいころからライバルだったら面白いだろうなと想像しまして、それを元にオリジナルストーリーとして脚本を書いた感じですね、はい。
―それで、こうやって吉沢亮さんと若葉竜也さんがその二人を演じたということですよね。
監督 そうですよね。すごいなぁと思って見てますけど。いまだにすごいなぁと思って(笑)。

=お互いの印象=

―今回共演されての印象を聞いてみたいと思うんですが。あらためて落合さん、吉沢さんとの共演シーンがたくさんありましたが、どんなところをすごいな、とか面白いなと思ったところありますか?
落合 亮君には入ったときに「〇〇観たよ、俺ファンなんだよ」と開口一番に言ったと思うんですよ。年下の子と共演する機会が増えてきたんですけど、その中でも素晴らしい役者さんだと思うので(吉沢お辞儀)嬉しい気持ちで毎日やってたし、竜也はいなかったんだけども二人の空間でやってたって感じで、ね。毎日楽しかったです。

―そう言われてますけど、吉沢さんどうでしたか?
吉沢 楽しかったですよ、ほんとに。この作品の中で会話する人って、ほぼほぼ磯野だけなんで、僕は。二人で作っている空気感とかも・・・共演させていただくのは初めてですけど、なんかすごく居心地の良いというかやりやすい空気感でやらせていただいてました。すごく楽しかったです!
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―若葉さんちょっと孤独なシーンも多かったと思いますが、どうですか?吉沢さんと共演されてみて。

若葉 僕、吉沢くんとほとんど3日くらいしか、ね?
吉沢 そうですね。4シーンくらいしか一緒にシーンがないんで。
若葉 一緒のシーンがなくて、後はほぼほぼ一人で悩んでるシーンなんで全然楽しくなかったですね(笑)。
―お会いになってみていかがでしたか?ファーストインプレッションというか?
若葉 え、吉沢君とですか?吉沢君は・・・勝手なイメージですよ、僕の。爽やかでスターな感じかな、と思ってたんですよ、勝手に。そしたらもう、死ぬほど暗くて(笑)。こんな感じなんだと思って・・・英一が吉沢君の本来の姿に近いのかなと、僕は勝手に思いました。どうなんすか?(吉沢へ)
吉沢 近いですねぇ。(笑)
若葉 暗いよね?(笑)
吉沢 暗いです。自分で言うのもあれですけど、演じていて彼のなんか、暗いんだけど、別にそれを・・・なんていうんだろ。ほんとは周りに興味あるんだけど、暗いしどう接していいのかわからないから全然興味ない振りをしている感じとか、すごく理解できるし。ここまで内心が役とフィットする瞬間があんまりないなぁと思いながらやっていましたけどね。

―落合さんはそういう風に思いました?横で見ていて。
落合 うーん、じゃ俺の前では気丈に振舞ってくれていたのかな?(吉沢 笑)
若葉 そうそうそう。たぶん。一回ね、吉沢君がある女優さんと映画の宣伝をしているラジオを聞いたの。めっちゃ明るくて(吉沢 笑)
落合 ヤバいよねあれは。
若葉 ヤバいよね。全然違うじゃん。あれはなんかスイッチがあるの?それとも日によってあんなに高低差があるの?
吉沢 たぶんどっちもほんとなんですよ。作ってるわけじゃなくて。
若葉 いや、ずるいそんなの。もっとほんとのことが知りたい。(笑)
吉沢 違うんですよ。ほんとに根は暗いけども、ふざけたりするの大好きだし、騒ぐのも大好きなんです、ほんとは。
若葉 じゃもっと話しかけると、もっと吉沢亮が見れる?
吉沢 見れますね。わりとモトキ君はその段階まで来てましたね。
若葉 え、二人でいるときどんな感じだったの?モトキと。
落合 亮君だいたい座らない、かな。
若葉 いやいや、おかしな人になってる。座らず?(笑)二人で飲みに行ったりしたんでしょ?
吉沢・落合 行った。行きました。
落合 ちゃんとほろ酔いになるまで飲んで。でも吉沢亮君が連れてく店ってことだから、俺値段設定がわかんなかったから、しこたまATMで金おろして(笑)・・・楽しく飲めた。
若葉 ああそう。僕は一回も飲みに行ってないですけど。ほんと現場で5言くらいしか喋ってないです。
―ジェラシーですね。
若葉 ジェラシーとか?僕はもう暗い人だと思ってたんで。勝手に。「次に行って」ってカンペ出てます。(爆)

=「〇〇超え」は何?=

―みなさんがどういう性格なのかわかりそうな深堀りの質問をしていきます。空前の将棋ブームの今年、藤井壮太二段が出した一手が「AI超え」と話題になりました。そこでみなさんに共通質問です。個人的に今年「○○超え」、以前の自分を超えたことはなんでしょうか?すっごいシンキングタイムになってますけど。
若葉 誰からですか?
―誰からいきましょうか?
吉沢 これはあれですよね。出た人からいけばいいんじゃないすか?
―じゃ吉沢さん
吉沢 えっ(笑)。僕から?えー、難しい。何何超えですもんね、何かを超えなくちゃいけないんですよね。ほんとに出てこない。ちょっと待って。
若葉 「何何超え」ってどういう意味?(みんなからフォロー)新しくチャレンジしたことじゃダメなんですか?(いいよと声)
吉沢 そういうこと。あります?なんか。
若葉 俺はね、今まで服にお金かけなかったの。現場にいけばすぐに衣裳に着替えちゃうし、別に何でもいいやって思ってたの。だけど「ありえない金額のコートを急に買った!」(笑)それくらいしかない。
落合・吉沢 超えたね~!
若葉 なんかね、ほとんどが数千円で買えるものばっかりだったんだけど、1着だけ何十万もするコートがある。
落合 それさ、逆に合わせづらくない?
若葉 だけどね、今回のスタイリストさんが「上下スウェットにそのコート着てたら、外人のお洒落みたいでいいね!」って言ってくれた。(笑)それ得意技にしようかと思って。
吉沢 筋トレ、超え。
―具体的に教えてください。
吉沢 筋トレを始めました。役でです。今まで筋トレとか全然やってこなくて、けっこうぽちゃぽちゃしてたんですけど、役で、っていうのもそうだし、人前に出る仕事だからと思って、去年の末くらいから始めて。
若葉 ムッキムキの吉沢君ってどうなんだろうね。ムキムキになるつもりなの?
吉沢 細マッチョよりはもうちょい。ガタイ大きい感じの。最近舞台でけっこう体力使って痩せちゃいましたけど。ちょっと前までもっと腕とかも、ポン、ポンポン(胸)と、来てたんですけどね。はい。
監督 僕はね、緊張を越える瞬間がずっと続いておりまして。もう今もよくわからないことになっていますけど、こんなに人前に出ることは人生で一度もなかったんで。自分の緊張をコントロールできてるんじゃないの最近は、ってなってますね。みなさん(俳優陣)ね、表に出るからなんともないでしょうけど、僕はもういいです。

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落合 僕、今年30になったんでいろいろ、「食」を見直そうと思って。昼ご飯今までラーメンとか、カレーライスとか食べてたんですけど、最近「鰻」を食べるようになって。鰻重食べています。全然「超え」に落とせないんだけど(笑)、とりあえず「鰻超え」です。
吉沢 意味あるんですか?鰻をとるってことに。
落合 なんかおとなっぽくない?肝串食って一杯やって白焼き食うか、鰻重食うか、選択肢みたいな。それはちょっと大人っぽいというか、ぶってるというか。
吉沢 ああ・・・超えてます。
落合 超えたでしょ?超えました~(笑)。

=立ち直る方法=

―ありがとうございます。ではもう一つ聞いてみたいと思います。主人公英一はコンピューター将棋に出会ったことで再起いたします。みなさんに質問です。これまでにくじけそうになったとき、どうやって自分を奮い立たせたり、立ち直ったりしましたか?若葉さんいきますか?
若葉 俺?俺ですか?ほぼ毎日くじけそうになってるんで、何だろうな?ええ、くじけてますよ、もうとっくに。
僕、大衆演劇出身でずっと芝居に触れて来たんで、正直役者業とか馬鹿にしてて、役者以外になりたいってずっと思ってたんで。だけどあるときから・・・プロ棋士もそうですけど、ボクサーとか年齢制限があるじゃないですか。自分ができることの可能性がどんどんなくなっているって思って。唯一生活できる可能性が高いのは、産まれた時からやってるこの仕事だっていう。だから挫折的に役者になった人間なんで、今現在挫折している状況ですね(笑)。
吉沢 挫折をどう乗り切るか、ってことですもんね。挫折とはまたちょっと違うかもしれないんですけど、あまりにも目の前の壁が大きいとか、どうやって乗り越えたらいいかわかんないってときは、めちゃくちゃネガティブになるんです。自分をネガティブに落とし込んで、いざ蓋開けてみたらそうでもなかった、みたいなパターンが多いですね。
若葉 じゃ『AWAKE』撮影中はそんな感じだったの? あれはスタンダードな吉沢君?
吉沢 ちょっと難しいな、どういうことですか?
若葉 落ち込んで「こんな芝居できないかもしれない」と思ってくるわけでしょ?地獄に着いているのか、スタンダードなのか?
吉沢 あ、そういうこと。あれはスタンダードです。
若葉 ああそう。へええ。
吉沢 今回も台詞難しかったりとか、挑戦しなきゃいけないようなシーンも結構いっぱいあったんです。そういうときも落とし込めば落とし込むほどなんかこう、心配になってきちゃってやるしかなくなってくるじゃないですか。それでやったら意外とできる、みたいなことが多いですね。
―ちょっとMっ気があるんですね。
吉沢 ・・・はい。そうかもしれない(笑)。
落合 挫折はみんなの言葉を借りればほんと毎日しているし、カメラの前でワンシーン、ワンカット撮るたびに挫折してるいうか、後悔しているような気持ちだし。でもどうにか続けていかなくちゃ、と。どうするかというか、ほんと時間が解決するものかなって思いつつも、応急処置は必要だなと思ってるので。うち猫2匹飼っているんで、帰ったら猫が2匹寄り添って寝てるところに顔をうずめて猫に迷惑をかけるっていうのが一番の応急処置かな。猫に癒されて次の日も頑張ろうって思う。
長い台詞のとき、山場だなこれ、っていうとき行けるかな?って思うときあるじゃないですか。次の日の夜(のことを)考えたりしません?この時間には終わってんだろ、このシーンって。
吉沢・若葉 あるあるある・・・
若葉 12時間後には終わってるなとか。
落合 そうそうそう!
吉沢 確かに。ありますよね。
落合 何とかなるんだろ、って思いながらお芝居をしてるっていう。それも応急処置のひとつかもしんない。(笑)
監督 僕はにぶいのか、挫折ってあんまり経験してないような気がしますね。まあ、あるとすれば、そういう気になったときは「なるべく人のせいにする」っていうか(笑)、自分が悪いんじゃなくてそれ以外の何かの要素がきっと悪いんだってことで、自分の身からなるべく離して考えると、あんまり深刻にならなくてすむのかなと思ったりします。

―ありがとうございました。では最後に吉沢亮さん、12月25日に公開になりますので、メッセージいただけますか?
吉沢 もちろん将棋ファンの方にも、そうでない将棋の知識があまりない方にも楽しんでいただける内容になっています。友情の話だったり、青春、成長、普遍的なものを根本のテーマとしておいている作品なので、いろんな世代のいろんな方に観ていただきたいと思っております。クリスマス、ぜひ『AWAKE』を観に来てください。お願いします!(拍手)

(C)2019「AWAKE」フィルムパートナーズ
http://awake-film.com/
作品紹介はこちら
★2020年12月25日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

『サタンタンゴ』 タル・ベーラ監督来日記者会見

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ハンガリーの巨匠 タル・ベーラ監督が4年の歳月をかけて1994年に完成させた7時間18分におよぶ伝説の作品『サタンタンゴ』。この度、製作から25年を経て、4Kデジタル・レストア版が日本で劇場初公開されるのを記念し、タル・ベーラ監督が来日。9月14日(土)、記者会見が開かれました。

サタンタンゴ
原題:Satantango
監督・脚本:タル・ベーラ
共同監督:フラニツキー・アーグネシュ
原作・脚本:クラスナホルカイ・ラースロー
出演:ビーグ・ミハーイ、ホルバート・プチ、デルジ・ヤーノシュ、セーケイ・B・ミクローシュ、ボーク・エリカ、ペーター・ベルリング

ハンガリーの寒村。雨が降り注ぐ中、死んだはずのイリミアーシュが帰って来る。彼の帰還に惑わされる村人たち。イリミアーシュは救世主なのか? それとも?
悪魔のささやきが聴こえてくる・・・
シネジャ作品紹介

1994年/ハンガリー・ドイツ・スイス/モノクロ/1:1.66/7時間18分
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/satantango/
★2019年9月13日(金)より、シアター・イメージフォーラム、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国順次公開


◎タル・ベーラ監督来日記者会見

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司会:まずは、ひと言、ご挨拶を!

タル・ベーラ監督:
 ハロー! 今日は来てくださってありがとうございます。
(ほんとに、ひと言! え? と呆気に取られますが、監督は「go ahead!」と涼しい顔)

◆人間の根本は同じ 世界どこでも反応は変わらない
司会:本作が完成されてから25年間、世界の各地で上映に立ち会われてきましたが、国によって反応の違いは?

監督:文化、歴史、宗教、肌の色などが違っても、どこの国でも同じリアクション、同じ質問を受けました。ロサンジェルス、中国、タイ、韓国、ポルトガル等々、なぜか同じ反応でした。人間の根本を描いているからかもしれません。
人間の存在、人間関係、時間と空間を組み合わせて過去を振り返るなどの観点で掘り下げたものを、皆さん理解してくれて嬉しい。
私は芸術を信じてないし、私自身、芸術家という言葉は好きじゃありません。私は労働者です。作品を作るときには、人間の存在、世界がいかに複雑であるかを見せる努力をしてきました。
25歳のモノクロは、歳月が経っても人々に同じように受け止められています。時が経って、ある種の物差しになっていると感じています。

― 自分を労働者だとおっしゃいましたが、会社や資本家のために働く労働者ではないと思います。込めた思いは?

監督:public workerです。収益のためでなく人々のために働く公的な労働者です。

◆デジタル映画には違う言語の可能性があるはず
― 今回、デジタルリマスターに変換して、フィルムと違うと感じたことは?

監督:とても奇妙でした。35mmフィルムで撮って、誰にもデジタル化を許可しなかったのですが、25年経って、よし、やってみようと。 すべてのフレームをちゃんと見て、その結果、ほぼフィルムに近い『サタンタンゴ』が出来たけれど、やはりフィルムとは違う。
ワールドプレミアとしてベルリンで上映したのですが、人気を博しました。25年経って、毎年毎年、この作品を好きになってくださる方が増えているのを感じます。
私はフィルムメーカーだと思っていましたので、35mmのセルロイドが好きです。
デジタルカメラで撮るとき、フィルムカメラと同じように撮影するのが問題。今のデジタル作品を観ると、フェイクのフィルム作品を作っているのではと感じています。デジタルならではの撮り方があると思う。違った可能性があると思うのです。誰かが新しいデジタル言語を作ってくれると信じています。

― 7時間18分、すべてご自身でチェックを?

監督: はい、もちろん全部自分でチェックしなくてはなりませんでした。技術者のことを信頼してないからね。アメリカの会社のチームに猜疑心を持ってました。映像や音をちゃんと再現してくれるのかと。でも、とても楽しい作業でした。
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◆酒場のダンスは酔っ払って自由に
― 酒場でのダンスシーンが何度も出てきますが、振り付けや人々の踊り方はどのように?

監督:
実際にお酒を飲んでいただいていました。ダンスを踊れる技量があることはわかっていたのですが、完璧に酔っ払い状態で、自由に踊ってもらいました。ワンテイクでいいものが撮れたのは、私自身、実に驚きました。
それぞれの方が自分のファンタジーをそのシーンにもたらしてくれました。踊り方も違いました。
我々は状況をもとにフレームを構築しなくてはいけないのですが、恵まれていれば、新たにフレームを作らなくても済みます。
出演者の方に自由にしてもらえば、彼ら自身の人生を反映してもらえます。
一人一人にこうしてくれというより、100%良い結果になると確信しています。
自由であることは力。花咲くことができるし、そこに存在してもらえます。

― 酒場のシーンはワンテイクですが、最もテイク数の多かったシーンは?


監督:よく覚えていません。撮れたと思った時には、どれ位かかったか、どうでもよくなっています。
生命感にあふれる瞬間を撮りたいと日々闘っているのですが、そんな中でも大変だったのはイルミアーシュの演説のシーンですね。これだけは台詞がきちんと用意されていましたから。他のシーンは、状況に合わせて、人々が自然に反応する形で撮っています。

◆演出できない蜘蛛や猫を動かす

― 蜘蛛には、どのように演出されたのでしょうか?

監督:いい質問! 動物トレーナーの方に、蜘蛛に上から下に降りてくる方策を考えてもらいました。複数の蜘蛛がいて、そのうちの1匹でも降りてくればと。
美と真実は、ファンタジーとドキュメンタリーから得られます。すべてが偶然とはいかないけれど、蜘蛛を演出することはできないからね。

― 正しい状況を作れば、正しく動くとのことですが、猫は?

監督:
猫をトレーニングしなければなりませんでした。(少女エシュティケを演じた)ボーク・エリカは3週間、毎日猫とゴロゴロしていました。猫は少しずつ慣れてきて、エリカを引っ掻くこともありませんでした。音もたてませんでしたので、アーカイブから猫の泣く声や引っ掻く音などを持ってきました。猫にとってはゲームのような感覚でした。
猫が死んでしまう設定なのですが、獣医に薬を注入してもらって、眠りに落ちたところで撮影しました。眠りから覚めたときには安心して、ご褒美に餌をあげたけど、まだ薬が残っていて吐いてしまいました。


◆映画で伝えたいことは伝えきって監督を辞めた

― 映画に対する愛情をとても感じます。なぜ監督業を辞められたのでしょうか?

監督:約40年、映画を作ってきました。初めて作ったのは、22歳の時。作品ごとに新しい問いが生まれました。前に進むことを強要され、1作ごとに掘り下げてきました。そして1作ごとに自分の映画的言語を見出してきました。『倫敦から来た男』のあと、何か1本作ったらやめようと決め、『ニーチェの馬』を作って、伝えたいことは伝えきったので、もうこれ以上繰り返し作って行くことはないと思いました。同じことを繰り返しても飽きてしまう。
監督という仕事は、レッドカーペットを歩いたり、美味しいものを食べて、いいホテルに泊まることじゃない。作ったものを分かち合い、皆さんが観て、どう思うか知りたいから作ってきました。それはもう終わりました。
25歳の時に目を輝かせていたのが、だんだん輝きを失ってしまいます。
ほかにやりたいこともたくさんありました。
映画作りをまったく諦めたわけではありません。今は映画学校を設立して、私のもとで若い映画作家が育っています。
アムステルダムやウィーンでパフォーマンスなども行いました。
もう自分の中で物語性のある長編映画は終わりました。

最後にフォトセッション。
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早くしないと退場されますとせかされましたが、思いのほかご機嫌!


★取材を終えて

タル・ベーラ監督の来日は、『ニーチェの馬』公開の折の2011年11月以来8年ぶり。ハンガリー大使館で開催された記者会見に颯爽と現われた監督の姿を思い出します。『ニーチェの馬』を最後に56歳という若さで映画監督の引退を宣言した直後のことで、記者会見でもそのことが大きな話題となりました。映画界から引退するわけじゃない、後身の指導に当たるとおっしゃっていた通り、映画学校を設立。フィルムをこよなく愛するタル・ベーラ監督ですが、デジタルで新しい映画言語を語れる若手を生み出していくのではないかと確信したひと時でした。

「マイクは嫌い。マイクなしで」と始まったタル・ベーラ監督の記者会見。映画に対する持論をたっぷり語ってくださいました。
「映画が1時間半くらいの尺じゃなきゃいけないなんて、誰が言ったんだ」という言葉も飛び出しました。
最後に、「日本語だと、どうしてこんなに長くなるのかな」と、おっしゃったのですが、いえいえ、英語でも充分長くお話されていました。通訳の大倉美子(おおくらよしこ)さん、お疲れ様でした!

取材: 景山咲子







『記者たち 衝撃と畏怖の真実』 ロブ・ライナー監督来日記者会見

『スタンド・バイ・ミー』『恋人たちの予感』『最高の人生の見つけ方』などの大ヒット作をはなってきたロブ・ライナー監督。リンドン・B・ジョンソン大統領の伝記映画『LBJ ケネディの意志を継いだ男』を経て完成させた本格的な社会派ドラマ『記者たち 衝撃と畏怖の真実』の公開を前に、初来日されました。

2019年2月1日(金)14:45~16:00
会場:FCCJ 公益財団法人 日本外国特派員協会
(東京都千代田区丸の内3-2-3 丸の内二重橋ビル5F)


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登壇者:左からロブ・ライナー監督、ダン・スローンFCCJ理事、ケン・モリツグ氏


『記者たち 衝撃と畏怖の真実』
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2003年3月20日のアメリカによるイラク侵攻。その理由の一つ「大量破壊兵器の所持」が、ねつ造だったことは今や明白だ。
だが、2001年9月11日の同時多発テロ後、ジョージ・W・ブッシュ大統領が愛国心をあおった結果、多くのアメリカ国民が、テロの首謀者であるビン・ラディーンとイラクのサッダーム・フセイン大統領が手を組んで大量破壊兵器を開発しているというマスメディアの報道を信じて疑わなかった。
そんな中、中堅の通信社ナイト・リッダーの記者たち4人は、政府の流す「大量破壊兵器所持」情報がねつ造ではないかと真実を追い求めた・・・
★2019年3月29日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
作品紹介


記者会見

◎ロブ・ライナー監督
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◆嘘を根拠に戦争に突き進むことに怒り
今日はお招きいただきありがとうございます。アメリカのプレスよりも、アメリカ以外のプレスからの質問の方が面白いので期待しています。
ベトナム戦争のとき、徴兵される年齢でした。2003年、イラク侵攻に至る過程で、なぜこんなことが起きているのだろうと怒りを感じながらみていました。ベトナム戦争と全く同じように嘘が根拠になって戦争になるのは、なぜ?という疑問、そして、なぜ止められないのか?という思いから、この映画を作ろうと思いました。
世界中で抗議活動が起こって、私も妻とデモに参加しました。子どもが道路に飛び出して車にひかれるのがわかっているのに、それを止められないという無力な気持ちでした。

政府は、9.11同時多発テロ事件とサッダーム・フセイン大統領は何の繋がりもないのに、大量破壊兵器を保有しているのが見つかったという嘘をでっち上げました。
嘘だとわかっているのに、なぜ戦争を止められなかったのか・・・と、心を悩ませました。
当時のイラク侵攻は、9.11事件が起こって一般市民が恐怖心を持っていたのを当時の政権がうまく利用して、自分たちの目的のために使いました。

◆健全な民主主義は、独立した自由なメディアなくしては成立しない
元々ネオコンのシンクタンクが作った「米新世紀プロジェクト」の中で、ソ連崩壊後、スーパーパワーであるアメリカがどう自分たちの力を使えばいいのかを提示していました。9.11事件の起こる前に作られたものですが、その中で、すでにイラク侵攻が決められていました。

頭を悩ませてしまうのは、「米新世紀プロジェクト」に関わった人たちが決して知性がなかったわけではなかったけれど、あの地に西欧的民主主義を植えつければイスラエルを守ることができて、中東が安定するのではと考えていたことです。
そもそもフランスや英国が第二次世界大戦後に介入したけれど、シーア派、スンニー派と宗派も分かれ、民族も多様で、そういう地に西欧的民主主義を持ち込むのは無理だとわかっていたのに、政府は目的のために、国民の不安をあおって戦争に突っ走りました。
私としては、なぜアメリカの一般市民がこんなにも政府のつく嘘を鵜呑みにしたのかが検証したいことでした。

映画にする時、『博士の異常な愛情』のような風刺劇にするか、ドラマにするか、あれこれ考えましたが、いずれもうまくいかない。リンドン・ジョンソン米元大統領の報道官だったビル・モイヤーズのドキュメンタリーを観て、今回題材にしたナイトリッダーの記者たちのことを知りました。彼らは真実を知って一般市民に届けようとしたのに、皆に知らしめることができなかった。それはなぜなのか?が映画の基盤になりました。
映画の冒頭にも掲げた「健全な民主主義は、独立した自由なメディアなくしては成立しない」が作品を作った理由です。

◆トランプ大統領の登場で今に届く作品に

製作当時は、現代に響く作品になると思っていませんでした。トランプが当選して大統領になって、「メディアは民衆の敵。フェイクニュースを流している」とメディアを攻撃しています。彼のやり口は、権威主義的で、独裁政治そのもの。恐怖心を一般市民に植え付け、混乱させ、解決できるのは自分だけだと主張するものです。プーチンも同じ手口です。
独裁主義と民主主義の闘いのテンションが高まっている今こそ、ジャーナリズムが真実を伝えていかなければいけないと考えています。


◎ケン・モリツグ氏

映画を作ってくださって、ありがとうございます。
ナイト・リッダーで記者として働いていたので、胸の熱くなるような思い出が蘇りました。2003年当時には、ワシントンにいました。知られざる勇気ある記者たちの姿を伝えてくれたことに大きな意義があると思いました。
当時、このような記事が出ていたことを知らない人が多いのです。真実を伝えたくない政府が存在する中、ジャーナリズムは民主主義の為に真実を伝える必要があります。
私は安全保障ではなく、経済部に所属していて、2001年9月11日には、経済関係の会議があって、ニューヨークにいました。そのため、9.11同時多発テロの取材もすることになりました。
4人の記者がフラストレーションを持って、一生懸命いい仕事をしていたのに、彼らの声は誰の耳にも届かなかった。地方紙30紙には記事を送ってリアルな状況を伝えていたけれど、影響力のない新聞だとワシントンの権力者には届きません。
わくわくするような激動の時代でした。どんどんイラク侵攻を実行する雰囲気が色濃くなってきた時、「イラクに侵攻するとは信じられない」と言ったら、ワシントン支局長のウォルコットさんから「信じなさい、これから実際に戦争になるから」と言われました。
*注:ワシントン支局長のウォルコット氏を、映画の中ではロブ・ライナー監督が演じています。

◎質疑応答
― 日本は報道の自由が2011年に11位だったのが、阿部政権のもと、67位に下がりました。日本で、この映画はどのような評判になると感じていますか?
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監督:アメリカ以外で、自分が実際に反応を感じることができたのは、チューリッヒとドバイの映画祭と日本です。3カ国ともいい反応です。アメリカ国内よりも、国外にいらっしゃる方のほうが何が起きていたのかクリアーに把握し、イラク侵攻は間違っていると抗議活動も起こっていました。アメリカ国内では、まだ9.11のトラウマを抱えていて、メディアも政府に対して批判的なことをいうと非愛国的だとみられるのではと感じていると思います。日本での反応はいいものになると確信しています。自由な国として、この作品を認めてくださると思っています。

― ホワイトハウスから現実をゆがめるような発信が多いので、メディアの正当性が失われつつあると、監督はある番組で発言されていました。現政権に対する現在のメディアのスタンスは、2003年当時の状況と比べていかがでしょうか?

監督:トランプ大統領が当選して、国営メディアとも呼べるようなメディアがある一方、政府に対して反論しているCNNやワシントンポスト、ニューヨークタイムズといったメディアも存在しています。両方が存在している状態だと思います。
2003年とどう変わったか・・・ それが真実かどうか、きちんと精査されていなかったと思います。とはいえ、2016年の大統領選でも同様だったと思います。
アメリカのテレビ局CBSの社長が、「国のためにトランプはよくないけれど、CBSためには良い」と発言しています。つまり金儲けに繋がるということです。
今もトランプが取り上げられることが多いのですが、民主主義が崩壊しかねない存在として観ている場合と、単純に売れるから記事にするという場合があります。後者の場合でも、究極的に真実が市民に届くのであれば意義はあると思います。
1960年代以降のニュースがどんなものであったかを思い起こしてほしいと思います。それ以前は収益に繋がらなくても、公益サービスの一つとしてニュースは存在していました。1960年代に「60minutes」というCBS放送のドキュメンタリー番組が誕生して以降、ニュースが収益性に繋がっていき、プレゼンの仕方にシフトしていって、一つの商品のようになったように感じています。それでも、真実にたどり着くのであればいいと思ってはいます。
ただ、報道機関が大企業の傘下にどんどん入っているという状況があります。気を付けなければいけないのは、報道機関が独自性を持ってニュースを伝えているかどうかです。
あるコメディアンがメディアに向かって、「皆、トランプのことが嫌いというけど、ほんとは大好きでしょう。だって金儲けさせてくれるから」とジョークを飛ばしていました。このことをトランプ氏もよく知っています。まさに、ホワイトハウスにリアリティ番組のスターがいるような状況です。メディアは彼のことをどんな風に報道していいか模索している段階です。見たいメディアしか見ない人たちに、どう真実を伝えていくかが大事だと思います。

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最後の質問は、ケン・モリツグ氏から
ー近年は『スポットライト 世紀のスクープ』や『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』のような報道の真実について描いた作品が続いていますが、こういったジャンルの映画が確立されてきていると思いますか?

監督:それはどうでしょう。観客はひたすらキーボードを打つ人の姿を映画で観るより、爆発シーンを観たいのでは? でもこういった映画が真実に光を当てることができるのであれば、それは素晴らしいことだと思います。

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NHK BS1 3月22日(金)の「キャッチ! 世界のトップニュース」”映画で見つめる世界のいま”で、東京大学大学院教授 藤原帰一さんがロブ・ライナー監督にインタビューしていた中での発言を引用しておきます。

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市民が真実から切り離されていたら悲劇が起こります。
自由で独立したメディアがいかに大切かを語っています。
同時多発テロとイラクは全く関係なかったことをメディアはちゃんと伝えませんでした。
事実が明らかになった後でもアメリカの75%の国民は、サダムがテロと関係していたと信じていました。それこそプロパガンダの力です。
アメリカ以外の国では、この映画を理解してくれました。
アメリカでもいい反応も得られましたが、気に入らないという人も多く、反愛国的映画だと思われました。
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一度植えつけられた情報は、なかなか変わらないことを物語っています。
サッダーム・フセインは独裁者で悪魔、だから処刑されて当然と思われています。
擁護するわけではありませんが、サッダーム・フセインが大統領だった時代、イラクでは教育も行き届き、女性も社会で活躍していました。
様々な勢力がせめぎ合い、未だに落ち着かないイラクを見ていると、部外者のアメリカの勝手な思惑で、気に食わない独裁者を倒した後のことも考えずに侵攻したことに憤りを感じます。

そして、このイラク侵攻、お馬鹿なジョージ・W・ブッシュ大統領を裏で操り、実行させたのがディック・チェイニー副大統領。
その悪名高き副大統領を描いた映画『バイス』も、4月5日(金)からTOHOシネマズ 日比谷他で全国順次公開されます。
ぜひ、『記者たち 衝撃と畏怖の真実』とセットでご覧ください。 

   取材:景山咲子