『おっさんずルネッサンス』髙野史枝監督インタビュー

2010年1月11日(土)名古屋名演小劇場にて公開

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高野史枝監督

シネマジャーナルに名古屋から寄稿している高野史枝さんですが、もう25年くらいになります。その高野さんが監督第一作の『厨房男子』を作ったのが2015年。そしてこの作品の中に描かれていた大府市の「メンズカレッジ」という講座とこの講座卒業生の「男楽会」に参加する男性たちをさらに追いかけたのが、この『おっさんずルネッサンス』です。
*『厨房男子』高野史枝監督インタビュー記事はこちら

定年後の生き方のモデルは大府(ここ)にある!

働いている人には必ずやってくる定年後の生活。仕事一筋できた人は「効率第一」だったり、「経済効果だけを見てしまう」など、会社や組織の中で、そういう考え方が染み込み、地域とのかかわりやコミュニケーション不足、孤立感などを感じている人もいるかもしれません。
人生100年の時代、定年後の生活に不安はありませんか? 女性に比べて男性のほうが定年後の生活をどのように暮らすかに不安が大きいのかもしれません。「楽しいセカンドライフ」をどのよう送るか、こんな定年後の「悩めるおっさん」たちに、愛知県大府市の施設「ミューいしがせ」では、20年以上前から「メンズカレッジ」という講座を開いています。ここで男性たちは、「生活自立(料理・家事)」「地域活動」「健康」など、セカンドライフに必要なことを学び、活動を通じて友達を作ります。年間23回ある講座は全て無料!
「おっさんずルネッサンス」は、 愛知県大府市で意識変革と生活の自立を果たす「おっさん」たちを主人公にしたドキュメンタリー映画です。
「おっさんずルネッサンス」には、幸せなセカンドライフを過ごすためのヒントがたくさんあります。大府発のこの映画は定年を迎えた本人だけでなく、向き合う女性や家族の共感もきっと得られることでしょう。 そして意外にも「花が似合う」おっさんたちの明るくいきいきした表情を観にいってみてください。

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公式ブログより
 名古屋市の南に隣接する愛知県大府市(人口9万2000人)。このまちにある施設、「大府市石ヶ瀬会館(ミューいしがせ)」では、20年以上前から「メンズカレッジ」という男性対象の講座が開かれている。30人の講座生は、1年間一緒に料理を作り、講座や講演会に参加し、遠足に行き、活動を通じて友だちになる。卒業生は「男楽会(だんらくかい)」という自主活動グループを作り、料理技術をさらに磨いたり、様々なボランティア活動の中心になって活動を続ける。男楽会の会員は、それぞれの家庭でも、習った家事の腕を生かし、料理、洗い物やアイロンかけなどに積極的に取り組むので、家族からは感謝され、孫たちにも良い影響を与えている。
メンズカレッジと男楽会の会員およそ60人が、協力して積極的に取り組むコロッケ作り。コロッケは石ヶ瀬コミュニティの夏まつりの模擬店で販売されるが、美味しさで定評があり、すぐに売り切れる人気商品だ。今年(2019年)も2600個のコロッケは完売した。4月に始まったメンズカレッジでの学びも、9月には半分を終えた。今年参加した受講生は、それぞれ自分たちの半年間の変化を語り始めた・・・・

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髙野監督が撮りたかったもの
この映画を撮っている髙野監督は、ミューいしがせとは大変つながりが深く、長く映画講座を担当し、前作『厨房男子』では、大府市の男楽会を登場させました。 監督は「ミューいしがせがやっているこんな講座や活動が、日本中のどの地域にもあった ら、家族からハミでたり、引きこもりになるおっさんは間違いなく減る。男性たちが機嫌よく幸せになれば、それは周りにいる女性たちの幸せにつながる」と考え、この映画の製作を思い立ちました。何よりも「大府のおっさんたちの明るい顔を、日本中の人にお見せしたい!」と意気込んでいます。多くの市民の協賛を得て、「おっさんずルネッサンス製作実行委員会」も出来、サポート活動を続けています。 大府発のこの映画は、きっと現在の日本の「おっさん」たちだけでなく、今後必ず「その時」をむかえる男性や、その人たちと向き合う女性や家族の共感を得ることでしょう。

シネマジャーナルHP 『おっさんずルネッサンス』作品紹介
『おっさんずルネッサンス』公式HP

高野史枝監督インタビュー

Q1:『おっさんずルネッサンス』は、監督が2015年に製作された『厨房男子』に続く2作目のドキュメンタリー映画ですね。製作に至るまでの経過を教えてください。

高野史枝監督:前作の『厨房男子』は、「私の親しい男性(夫、息子、友人、友人の配偶者など)が料理を作り、みんなで一緒に食べる」という、わかり易い映画でした。そんなシンプルさが気に入っていただけたのか、名古屋の映画館で1か月の上映が叶い、その後も大阪や京都、神戸、横浜などの劇場で上映、映画祭へも出していただけるなど、「ビギナーズラック」な作品になりました。劇場公開が終わった後も、日本中あちこちの自主上映会に招かれてお話する機会に恵まれましたが、その時、観客の皆さんの反応が抜群によかったのが、「定年後のおっさんたち45人が挑む2500個のコロッケ作り」というパートだったんですね。「なぜみんな、あんなに仲良く楽しそうなんですか」「高齢者がコロッケをうまく作るのにビックリ!あの腕はどこで身に着けたの?」…と関心を持って感想や質問をしてくださるのは、登場人物と同年配(60~70代)の男性諸氏。その年代の方々は、「定年後の人生をどう生きたらいいのだろう。その参考にならないか」という切実な気持ちで映画をご覧になっていたんでしょう。
その反応に出会い、「そうだ!私は定年後の人生を生き生きと過ごす人たちを、大府でたくさん見ている。あのおっさんたちの生き方を『映画で見たいな・・・』と思う人は大勢いるかもしれない…」というアイデアがヒラメキました。それが運の尽き…ではなく(笑)、「おっさんずルネッサンス」製作のキッカケになりました。舞台になる愛知県大府市の施設、「石ヶ瀬会館(ミューいしがせ)」からも、ご協力いただけるというお返事があり、『厨房男子』でコロッケを揚げていたおっさんたちからも、「ええよ~やろまい。(やりましょう。名古屋弁です)」という「ご許可」が出たので、取り掛かることになった・・・というわけです。

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Q2:大府市のおっさんたちを「撮りたい!」と思った一番の理由は何ですか。

監督:まず何より「表情が明るくていいな」と思ったところ。ほら、高齢の男性って、眉の間にしわ寄せて、不機嫌そうな顔してる人が多くないですか? 大府市のメンズカレッジ、男楽会のおっさんたちは「眉間にしわ」寄せてません。威張ることなく、コミュニケーションを取るのが上手で、基本楽しそう。ひとことでいうと、「いい顔してる」人が多いんです。
長らく大府市の「ミューいしがせ」で映画講座を担当していて、前作にも出てもらって、大府のおっさんたちとすっかり仲よしになりました。皆さんとお話しているうち、「料理が上手く、女性と偏見なく話ができるステキなおっさんが大府に多いのは、たまたまじゃない。彼らが『ミューいしがせ』の講座や活動に参加しているからなんだ」と分かってきたんです。もちろん講座の内容が素晴らしいという事なんですが、もう一つ、おっさんたちに影響を与えているのが、メンズカレッジの姿勢だ」と考え付きました。
ここでは「前歴は一切問わない、言わない。上下関係のない平(たいら)な関係)」が前提になっているんですね。これって、男性が集まる組織ではかなり珍しい。活動には全員が加わり、仕事は公平に分担します。ここではみんなが社会の裃(かみしも)を脱ぎ捨て、一人の人間として向かい合うことからスタートしています。市長がコロッケ作りに参加しても、先月まで県議会議員だった人が出し巻き焼いてても、みんな平気で「下手だな~」「アンタ、家でもっと料理せなイカンわ」と、ハラハラするほど遠慮がない。権力や肩書、上下関係から解放され(「会社の毒気が抜けた」・・・とでも言えばいいでしょうか)、家族や周りの人の役に立つ喜びを知り、友だちと一緒に人生を楽しんでいる明るい顔したおっさん・・・こんなチャーミングなおっさんたちだからこそ、撮りたくなったんです。

Q3:大府市の皆さんの、熱心な応援があったようですね。

監督:はい。その通りです。今回「ミューいしがせ」を中心にした関係者の皆さんは、この映画の製作を本当に熱心に応援してくださいました。製作を決めるとすぐに、25人からなる「おっさんずルネッサンス製作実行委員会」(実行委員長・広川希依子さん)を立ち上げて毎月会議を持ち、大府市、大府商工会議所、大府市社会福祉協議会へ後援のお願いに行くときも、企業へ協賛のお願いに行くときも、必ず同行してくださったんです。地元の人間ではなく、顔もなく、当然信用もない私に対し、すぐに後援を決めてくださったり、応援カンパを出していただけたのは、この「後ろ盾」の皆さんへの信用以外の何物でもありませんでした。その後も製作資金集めについて一緒に悩んだり、撮影したい場所や人にはすぐに繋いだり、申請や許可を取りに走ったりと、普通ならフィルムコミッション(*)がやるような事もこなしてくださいました。ほんとうに、実行委員会の皆さんがいなかったら、この映画は出来ませんでした。
「ありがとうございました」と、心からお礼がいいたいです。
(*)映画製作の撮影支援をする機関。地方公共団体や観光協会が事務局を担当し、撮影場所のアドバイスや申請業務をサポートする

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Q4:今回の映画製作で苦労されたところは・・・

監督 一つ目は、撮る対象との距離ですね。特にメインで撮る予定の男楽会の皆さんとは、あまり遠慮のない関係。撮影でカメラが回ってても気にせず、全くいつも通りなのはありがたいんですが、カメラのこっち側にいる監督の私にも気楽に話しかけてくる(まあ、ワタクシメなど「監督」だなんて認識がないんでしょうが…)コロッケ作りの時、棒アイスを食べながら料理をやってるおっさんたちを撮ってたら、「アンタも食べやあ」と、私のところまでわざわざアイスを持ってきてくれた…(「あ、ありがと」と、つい受け取る私も私ですが)。「今の、もう1回やって」とお願いしても、「めんどくさい、ヤダ!」・・・よく知るためには仲良くならなくてはならないし、仲良くなりすぎると遠慮がなくなるし・・・・難しいものです。
二つ目は、自主映画を作っている人なら全員持ってる悩み、「製作資金不足」です。はい、私もそれに苦しんでいます。第一作目の時は、「何をやればいいか」ということすらわからず、一人でキリキリ舞いしてクタビレ果てたニガ~い経験があるので、今回は知人友人の様々なプロを総動員し、PR関係などは全部お願いして、労力の軽減を図りました。これでかなりのラクと責任転嫁はできたけれど、プロに頼んだ以上、最後にその請求書は必ずやって来るという事に気づきませんでした! 結局、最初にお話した「資金不足」という根源的な苦労は舞い戻ってきたのでした。
ジョーク好きな友達は、会うたび「いつ家売るの?」と挨拶してくるし・・・売りたくないんですけど~(泣)。

Q5:撮影中のエピソードはありますか。

監督:撮影に行った日本福祉大学の坂道で、ころころすってーん!と見事に転び、肋骨にヒビが入ったこと、編集に時間がかかり、2ヶ月近く外出しないで(歩かないで)机に向かっていたら、ある日突然、弱った膝裏の筋肉が「ピキッ!」と切れたこと、撮影に夢中になっていて、行く先々で眼鏡を忘れ、4つあった眼鏡が1つになったこと・・・あれ、これってエピソードじゃないですね。単なる「加齢現象」でした。失礼・・・。
そうそう、撮影担当のノンちゃん(城間典子)はイケメン好き。おっさんの中でも、特にご贔屓の「押しメン」がいて、微妙に彼のシーンが多かったような気が・・・(笑)。探してみてください。

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Q6:女性監督は、女性を主人公にして描くことが多いのですが、監督の作品は、なぜ2作とも男性が主人公なんですか。

監督:私は「映画界にもっと女性監督やスタッフが増えなくてはならない」と、ずっと言い続けてきて、とうとう自分も監督になってしまったようなヤツです。それは「女性監督は女性の発想が理解できるので、男性監督とは違う視点で女性像が描けるはず。映画でそれが見たい」という自分の思いが強かったからなんです。ここ10年近く、女性監督の数は飛躍的に増え、毎年行っている「大阪アジアン映画祭」では、2019年コンペ部門に入選した14本の作品中、8本が女性監督の作品だった…というほどになりました。
ご質問の通り、女性監督は女性を描くことが多いです。男性監督が勝手に「解釈」した女性ではなく、女性監督が描いたリアル女性像を見て、男性が女性への理解を深める・・・という状況が、もっと進んでほしいです。それと同時に私は、「女性はこんな男性が好き。男性にこうなってほしいと思ってるのよ~」という直接的なアピールもしたいな・・・と思ってました。ドラマではなく、ドキュメンタリー映画なら、それができるんじゃないかな・・・と思って『厨房男子』(2015年)を作りました。内容はズバリ、「女性は料理する男性が好き!」。わかりやすいですね。では、「おっさんずルネッサンス」という映画で、私がしたいアピールは何か?それは、「男性がシアワセに暮らしていないと、女性もシアワセになれない」です。結婚している人なら、夫の定年後は顔を突き合わせる時間が増えます。そんな時、夫が「やることも行くところも友人もなく、終日ムッツリして家から出ない」「しかも食事は3回キチンと食べる」という状態になったら、妻はきっと「こんな生活ゼッタイいや!」と思うに違いありません。こんな夫も大してシアワセではないでしょうが、妻もまた不幸せです。実際私の女友達など、「定年後、夫が毎日家にいるかと思うと恐怖」「そうなったら離婚を考える」と広言してます。
でも、大府の「ミューいしがせ」の「メンズカレッジ」講座生、そこを卒業した「男楽会」の皆さんはぜんぜん違います。やることがいっぱいあり、家族にも地域にも溶け込んで、楽しく暮らしています。こんな「豊かなセカンドライフ」を送るおっさんたちをお見せしたかった!
 これが、男性を主人公にした「おっさんずルネッサンス」を作った理由です。

Q7:この映画を、どんな人達に、どんな風に見ていただきたいですか。

監督:やはり、定年が視野に入ってきた男性、その配偶者や家族の方に、ぜひ見ていただきたい!
定年後を過度に恐れるんでもなく、楽観視もせず、「今までとは違った人生が始まるんだな。そのために考えておかなくてはならないことがあるんだな(経済的な問題は知りませんケド)」と、知っていただけるといいなァ・・・と思います。実際、この映画にはいろいろなヒントがあると思いますしね。自分の親がこの年代に差し掛かった30代、40代の若い方も、「親へのアドバイス・励まし」のためにご覧になっておくといいんではないでしょうか。親が無気力になり、元気に暮らしていないと、結局負担は子どもの肩にかかってきますから・・・。
また、自治体の「生涯学習」「高齢者関連部署」の方々、地域の公民館や女性会館などの担当者の方々に見ていただけたら、地域で求められているものを知るきっかけになり、今後の支援活動がより的確なものになるんではないかと思います。まあ結局、「皆さん見てくださいね~」に尽きますが・・・。
『おっさんずルネッサンス』パンフレットより転載
写真クレジット:おっさんずルネッサンス製作実行委員会
まとめ:宮崎 暁美

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