『出櫃(カミングアウト) 中国 LGBT の叫び』 房満満監督インタビュー

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房満満監督

『出櫃(カミングアウト) 中国 LGBT の叫び』
2021年1月23日(土)K's Cinemaで公開 03-3352-2471 ①10:00~ ②11:20~(1日2回上映) 順次全国公開 上映情報

中国に7000万人いると推定される性的マイノリティの人々。『出櫃(カミングアウト)中国 LGBTの叫び』は、自分のありのままを受け入れてもらいたいと、親と向き合う中国のゲイとレズビアンの若者に密着取材している。
上海で学習塾講師の仕事を持ち、江蘇省で教員資格の認定試験を受けようとしている26歳の谷超(グーチャオ)は、中秋節の帰省時に「自分はゲイである」と父親に告白しようと一大決心をする。一方、上海に暮らす安安(アンアン)は19歳で母親にカミングアウトしたが、受け入れられないまま32歳になった。両親は幼い頃に離婚し、母親が女手一つで育ててくれたが、母親は「娘には自分と違って幸せな家庭を築いて欲しいと切に願い、女性は結婚しないと幸せになれない」思いこんでいる。安安は自分が同性愛者であることを理解して欲しいと何度も話したが、母子は平行線のまま。今はパートナーの丹丹(ダンダン)と暮らしている。母親が「結婚しなければ自殺する」と言うので悩んだ安安は性的マイノリティを支援する同性愛者支援団体の支援を得て、改めて母親に受け入れてもらおうとする。同性愛を受け入れがたい親と、葛藤し壁を乗り越えようとする子供。そんな中国の親子の姿を追っている。
「出櫃」は、「クローゼット(蓋がある箱)から出る」というような意味で、カミングアウトのことを指す。

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安安さん(左)と丹丹さん(右) ©テムジン

LGBTとは(TOKYO RAINBOW PRIDE HPより)
Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつです。

・シネマジャーナルHP 作品紹介
『出櫃(カミングアウト) 中国 LGBT の叫び』
・『出櫃(カミングアウト) 中国 LGBT の叫び』 公式HP

房満満(ファン・マンマン)監督
中国出身。2009年交換留学で来日。一旦中国に戻ったのち、再来日し、早大大学院でジャーナリズムを学び、2014年番組制作会社「テムジン」に所属。主にテレビドキュメンタリーの演出に携わっている。『出櫃(カミングアウト 中国 LGBT の叫び』は2019年2月にNHK「BS1スペシャル」として放送された。映画に再編集され、「東京ドキュメンタリー映画祭2019」短編部門でグランプリを受賞した。その他、現在公開中の映画『あこがれの空の下 教科書のない小学校の一年』の演出も担当している。

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房満満監督インタビュー
取材・写真 宮崎 暁美

*このドキュメンタリーを撮ろうと思ったきっかけは?

ー このドキュメンタリーを作ったきっかけは、友人がLGBTとカミングアウトしたことがきっかけと聞きましたが。

房満満監督 日本に留学した時、後輩がLGBTとカミングアウトしたことで興味を持ちました。中国ではLGBTの存在などを考えたこともなかったです。

ー 中国ではLGBTは犯罪だったというけど、犯罪だったのですか? また、いつ頃、犯罪ではなくなったのでしょう。

監督 犯罪というか取締りがあって、その対象ではなくなったということです。文化革命当時、社会秩序を乱すとして同性愛もその対象だったのです。法律の中に「同性愛は犯罪」という言葉があって、その中からなくなったということではなく、今はその取締りがなくなったという形です。

ー では認められたというよりは、取締まられなくなったということなんですね。昔の中国映画を観た時に、男同士、女同士が手を繋いでいたりするシーンを観たことがあるし、同性愛というのが認識される以前は、日本でも女同士、男同士、街でそういう手を繋いでいる光景をみかけたけど、30年くらい前にはそういう光景は見なくなりました。それは同性愛という言葉が認識され「同性愛と思われたらいやだ」という思いからかもしれません。

監督 中国では、女同士が手を繋いで歩いたりすることは、今もけっこうありますよ。

ー 日本でも高校生くらいまでは女の子の間であったりはします。でも街では昔ほど見かけないですね。

*ジャーナリズム、映像などに興味を持ったきっかけは?

ー 日本に来たきっかけは?

監督 日本には2回来ました。最初は2009年に交換留学生として大学3年生の時に1年間来ました。1年がたち交換留学を終えて中国に戻り、そのあとジャーナリズムを学ぼうと思い、再度日本に来て早稲田のジャーナリズムコースに入りました。

ー ジャーナリズムに興味を持ったのは日本で?

監督 そうです。国を離れて、日本で初めて知ったこともあり、ジャーナリズムに興味を持ちました。日本に来る前は、特別に好きでも嫌いでもなくわからなかった。でも中国の教育の中で植えつけられたものはありました。日本に来て日本人の彼ができ、とても優しい人だったので、日本人に持っていたイメージが変わりました。中国では自分では意識していなかったけど、メディアの影響が大きかったんだと思い、それでメディアのことを学びたいと思いました。

ー すごく日本語がうまいと思ったのですが、外国人が話す日本語ではなく日本人よりうまいかも(笑)。外国人が話す日本語って、何十年日本にいても、元の国の言葉の影響で、その国の人が話す日本語ってわかりますよね。たとえば、中国の人、韓国の人が話す日本語は、イントネーションや発音に独特のものがあって、この人は中国人だな、この人は韓国人だなってわかりますが、房さんの話す日本語は日本人と同じです。

監督 彼のおかげです(笑)

ー そうですか(笑)。ま、言語に天性のものがあるのかもしれませんね。私なんか30年近く中国語を勉強していますが、全然上達しません(笑)。

監督 必要な環境にいないからですよ。必要なら必死で覚えます。私の母は英語の先生で、言葉に強いというような遺伝的なものもあるかもしれません。日本に来る前18歳から日本語を勉強していました。

*グーチャオさん、アンアンさんのこと 親への告白

ー グーチャオさん(男性)とアンアンさん(女性)ですが、中国のLGBTの団体から紹介されたとのことですが、何人くらい紹介されたのですか? また、取材はどのくらいの人数おこなったのでしょう。

監督 途中で挫折するかも知れないと思い4人撮っていましたが、他のふたりはストーリーとして発展しなかったので、このふたりに絞りました。

ー グーチャオさんがお父さんにカミングアウトする時に、ちょうどタイミングよく居合わせて撮っていて、よくこのシーンを撮れたなと思いました。グーチャオさんはともかく、お父さんも映ることによくOKしてくれたなと思いました。

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グーチャオさんとお父さん ©テムジン

監督 そもそも、中国の同性愛支援団体「同性愛者親友会」に依頼した時に「親にカミングアウトする所を撮りたい」と募集してもらいました。それに応募してきた人を撮りました。

ー じゃあ、逆に撮っているから告白できたということもあるかもしれませんね。

監督 そうですね。私がいたから告白できたかもというのはあったかもしれません。

ー このドキュメンタリーを撮るために、どのくらい中国に行ったのですか?

監督 5,6回行きました。

*中国でのLGBTへの認識

ー 私は1975年に、日本のウーマンリブの人たちと知り合い、その中でレズビアンの人たちとも知り合ったのですが、それまでは同性愛の知り合いはいませんでした。そういう運動の場だったので、行動的な人たちが多かったのですが、彼女たちのカミングアウトの話をいっぱい聞きました。45年も前のことなので、社会的な認識、受け入れという意味では、今とは状況が全然違います。世間一般的にもまだまだLGBTに対する理解がなく、親や兄弟・姉妹に受け止めてもらう以前に、ありのままの自分を受け入れてくれるような社会を作り上げるのが先決という時代でした。だから親や家族に認めてもらうのはもっと難しい時代だったと思います。なので親や家族にはカミングアウトしないという人も多かったです。そんな時代を経て、今は社会ではLGBTの話ができるようになりましたが、やはり日本でも親や家族に告白するのは勇気がいるには違いありません。
時代というのもあるかもしれないけど、中国では親に同性愛を告白するのは、より大変そうと思いました。儒教の影響か、親子の結びつきの強さや、親の意向に背くことへの罪悪感など、より圧がかかって、難しさに繋がっているのかもしれません。

監督 友だちとか周りの同年代の人へのカミングアウトは、そう難しくないけど、親への告白は受け入れられないことが多い。結婚とか家族を作るとか、人生の根本的なものを共有しないといけないから、告白は難しい。

ー この二組の親子を観ていて、親子関係について、羨ましいような、可愛そうというような感じも受けました。「ほっといてよ」とはいかないのですものね。

監督 そうですね。親と子の関係が強いからこそ、絆もあれば、家族を持つことや孫などへの期待もあり、LGBTを受け入れがたいというのはあります。

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安安さんとお母さん ©テムジン

ー 「結婚して家族を持つのが幸せ」と思い込んでいる親にとっては、自分の娘や息子がLGBTであることはなかなか受け入れがたいとは思いますが、中国社会の反応はどんな感じなのですか?

監督 都会と田舎は全然違うと思います。私も中国を離れて10年たつので詳しくはないけれど、上海とか、北京、広州、成都、深圳、蘇州とかだと「ま、いるよね」というような感じはあると思います。でも田舎だとそうはいかない。グーチャオ君の従兄弟の女性はカミングアウトの場にいてすごくショックを受けていたようです。やはり同じ年代でも、地方と都会では全然違うと思います。

ー LGBTは、昔は犯罪者で、今は犯罪者ではないとはいえ、メディアに出てくるということはほとんどないですか?

監督 ほとんどないです。

ー ではLGBTの団体が冊子を出しているとのことだけど、興味ある人たちは、そういうのを見ているというわけですね。

監督 そうですね。最近はWEBやネットメディアの世界ではLGBTの情報があるし、乗り越えた親子の証言とか載っていたりするけど、あくまでもネットを見ている世代にしか届いていないというのが現状です。

*TV番組から映画へ 日本にいて中国を撮るということ

ー これは映画になったけど、もともとはTVのドキュメンタリーですよね。

監督 そうです。今、私がテムジンで撮っているのはほとんどがTVドキュメンタリーです。

ー 今、劇場公開されている房監督の『あこがれの空の下 教科書のない小学校の一年』も、もともとはTV番組ですが、テムジンに入った時からどんな感じで制作に参加できるようになっていったのですか?

監督 テムジンは基本TV番組を制作する会社です。2014年にテムジンに入って、最初はアシスタントADを1年半くらいやって、そのあと企画を通して、現場ディレクターのようなことをやらせてもらって、それ以降ディレクターになって5年くらいです。

ー けっこう早く制作に入れましたね。

監督 アシスタントの時、だめなアシスタントだったので、早く脱出したくてバンバン企画を出しました。

ー じゃあ企画力ですね。やっぱり面白いと思わせるものがないと実現はしないものね。主には中国を撮ったものが多いのですか?

監督 そう。企画で勝負するしかないと思いました。私は中国の社会問題を撮ることが多いです。

ー じゃあ、中国と行ったり来たりですね。

監督 そうですね。でも去年から今年はコロナの影響で行けなくなってしまったのですが、通常は中国での取材が多いです。

ー テムジンは外国人が多いのですか?

監督 いえ、私以外は韓国人が一人です。

ー やっぱり中国とか、韓国とかの取材を強化したいというのはあるのですね。

監督 どうなんでしょう。テムジンは「中国のジャーナリズムをやりたいけど、中国ではできない」という人の受け皿のようにはなっていますね。自分もまさにその一人なんですけど。

ー 日本にいるから、中国の取材をできるというのはあるかもしれないですね。テムジンに関わらず、そういう中国人の監督、けっこう日本にいますね。(中国の慰安婦を撮っている班忠義監督、『靖国』李櫻監督、『選挙に出たい』邢菲監督など)
私にとって中国は近くて遠い国だったのですが、1989年に謝晋監督の『芙蓉鎮』という作品を観て中国映画にはまってしまい、その後すぐに中国語を勉強し始めたし、その後の2年間に約200本の中国映画を観ました。なので、今は中国は身近な国になりました。それほど映像の力は大きいです。がんばってください。それを伝たえたかった。
このドキュメンタリーは、この二人の人生を描いたものでよかったと思います。

監督 それはうれしい励ましです。

*中華圏でのLGBT映画

ー 同性愛を描いた中国映画は『東宮西宮』『藍宇』などありますが、これは日本では公開されましたが、中国では公開されていないのですよね?

監督 はい公開されていません。

ー 陳凱歌監督の『覇王別姫』は中国で公開されていますよね。

監督 たぶん公開されていると思います。張国栄のですよね?

ー それもあったから、同性愛が中国で犯罪というイメージがなかったんです。

監督 中国でカミングアウトするLGBTの人が、「張国栄がゲイなんですよ」というフレーズを使うらしいのです。そうすると親に伝えやすかったりするんです。

ー 一昨年、あいち国際女性映画祭で、香港の『女は女である』という、女性になりたい男子高校生を描いた作品の上映があって、主人公を演じた「男性から女性になった」トモ・ケリーさんに話を聞いたのですが、「香港では日本と違って、はるな愛さんとか美輪明宏さんのような人がTVに出てくることもなく、LGBTに対して意外に保守的なんです」と言っていたのが印象的でした。

監督 そうなんです。私も香港でLGBTの女性を取材したことがあるのですが、香港はモダンで現代化された街なのでLGBTに理解があるかと思ったら、中心部に行くほど保守的だということを知りました。香港はキリスト教の影響が強いみたいです。台湾は逆にLGBTの映画も多いし、そういう人たちに理解が進んでいますね。

ー 何がきっかけで、社会がLGBTを受け入れられるようになるかわからないですね。将来的には中国も、政府が認めなくても、社会が受け入れていく方向が出てくるといいですね。日本でもほんのわずかですが、社会保障的なものが地方自治体などで受け入れられてきているようです。でも、まだまだこれからですね。

監督 中国のLGBTの人たちは、親が認めてくれて、パートナーがいてということが実現すれば満足なんだと思います。そして子供がほしいという同性カップルも出てきています。
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©テムジン

ー この映画が日本公開されて、中国に影響を与えるということはないだろうけど、中国にも日本と同じようにLGBTの人がいて、やはり親へのカミングアウトに苦労しているということは、日本人にアピールすることはできますね。

監督 中国で、日本語学科の人たちがNHKの番組に字幕をつけたりしてWEBにアップされたりしているので見ている人もいます。

ー 日本では、地方のTV局で作り、その局でしか放映されなかった番組が映画化されるというような流れがあったりするので、この作品も、自主上映で日本のあちこちに広がっていくといいですね。

監督 テムジンでは、TVから映画になったのは初めてです。

ー 今やっているもの、これから作るものなどはありますか?

監督 今、やっているのは中国に住む黒人の話です。黒人に対して優しくない中国社会の中で、彼らの生き様をみつめる作品です。

ー アメリカからではなく、アフリカから来ている人たちですか?
中国では彼らに対して、差別意識が強いのですか? 

監督 そうです。アフリカから来ている留学生とかビジネスマンの方たちです。

ー 私は1996年頃、北京語言学院に6週間短期留学したのですが、その当時でもアフリカからの留学生がけっこういましたね。

監督 アフリカとの関係をよくするため、中国政府が奨学金をけっこう出しているんです。

ー そうなんですか。それもTV番組で作っているわけですよね。良い作品に仕上がることを祈っています。そして、映画のほうにも活躍の場を広げていってくださいね。ありがとうございました。


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