【日時】4月23日(木)14:50~16:20
【会場】専修大学生田キャンパス10号館10101教室
専修大学文学部 ジャーナリズム学科 山田健太教授より、ノウシーン・ハーン監督紹介。
(学生たちは、前週の講義の時間に『わたしの聖なるインド』を鑑賞し、感想を提出済)
『わたしの聖なるインド』 原題:Land of My Dreams
監督・撮影・編集:ノウシーン・ハーン
2019年12⽉、モディ政権はイスラム教徒を意図的に排除した市⺠権改正法(CAA)を制定。イスラム教徒の間で市⺠権を剥奪される危機感が⾼まる中、反対運動の拠点だったジャミア・ミリア・イスラミア⼤学構内に警察が乱⼊。この暴⼒的な対応と差別的な法案への抗議として、デリー南部のシャヒーン・バーグで、⼤規模な座り込みが始まる。その中⼼にいたのはムスリムの⼥性たちだった…
シネジャ作品紹介
ノウシーン・ハーン監督 特別講義
通訳:若井真木子さん(山形国際ドキュメンタリー映画祭・東京事務局)
ドキュメンタリーを作り始めて10年。いろいろ紆余曲折がありましたが、日本で公開されることになりました。
◆自分が何をしたいかを探る
ジャミア・ミリア・イスラミア大学でマスコミニケーションで修士号。その後、ムンバイで映画製作に携わりました。最初は編集の仕事。撮影が終わった映画のポストプロダクションをする会社でした。でも、自分は映画を作ることをしたいと思い、アシスタントカメラマンとして、まず映画のメーキングを作成しました。映画製作の中で、どういう仕事があるかを学べました。次にカメラマンの助手の仕事に就きました。しばらく撮影監督の助手をしていましたが、監督の意図したものに沿って撮影するだけとわかって、自分が面白いと思うものを撮りたいと思いました。
その後、テレビのプロデューサーや、CM制作などを経験して、何が自分に向いているのかを探りました。通常、カメラマンをずっとやって、助手から監督とキャリアアップするのですが、私は違いました。
◆カシミールに拠点を置き映画のテーマを模索する
北インドのカシミールは、紛争地域という一方、美しい山岳地帯の観光地なのですが、そこに拠点を置いて、インディペンデント監督として、映画を撮り始めました。
美しい風景の陰に隠された紛争に興味を持つようになりました。いかに住民、特に女性や子どもが苦しんでいるかを知りました。2018年にドキュメンタリーを撮り始めました。2019年に法律が改正されて、カシミールの既得権が剥奪されました。ネットなどが遮断されました。いろいろなドキュメンタリーを撮って、模索しました。2年ほどテレビや映画の企画を提案していきました。現地の人たちとの信頼関係を築きながら模索しました。ジャーナリストの精神がインディペンデントで映画を作ることの原動力でした。
◆市民権改正法へのデリーでの抗議運動を撮る
2019年、市⺠権改正法(CAA)が問題化しました。デリーに行って、ジャミア・ミリア・イスラミア大学の抗議運動を取材しました。ものすごい暴力で、抗議運動が妨害されているのに、正しく報道されないことを目の当たりにしました。記録しなければと思いました。インドの大手メディアは政府の息がかかっていることが多いので、違う視点で報じなければと思いました。ニューデリー南部のイスラム教徒居住区のシャヒーン・バーグでの座り込み抗議運動は、女性が中心。発端は、大学の図書館に警官が侵入し学生に暴行を行ったことでした。学生は、インドの未来。そんな風に扱うことに耐えられないと、母親など女性たちが立ち上がりました。
市民権改正法についても知ることになりました。
抗議運動の中心は、ムスリマ(イスラーム教徒の女性)でした。普段、外に出ない女性たちが、表に出て声をあげたことに驚きました。インド政府に不満を持つ人たちが、彼女たちに触発されてインド全土に抗議運動が広まりました。
座り込みしていた人たちの内、100人以上が暴力によって亡くなりました。コロナでロックダウンになり抗議活動は終わってしまいました。
暴力の風が吹き荒れたのは、ムスリムが標的だったのに、ムスリムが悪いという風に報道が捻じ曲げられました。
3年、編集にかかって、最初、山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されて市民賞(観客賞)をいただきました。ようやく日本で公開されることになりました。
◎学生たちとのQ&A
― 映画を観るまで、インドで起きていることを全く知りませんでしたので驚きました。ドキュメンタリー映画を作って、インドへの思いは変わりましたか?
(女子学生から、英語での質問でした)
監督:大学の図書館に警察が突入して暴力をふるいました。大きな痛みと怒りを感じました。証拠を記録として集めました。暴力をした側が裁かれると思っていたのに、力でもって無きものにしようとしました。すべてを記録することで、抵抗することのアーカイブにしたいと思いました。人々の希望や連帯がコロナでロックダウンになって、圧倒的に違う世界になってしまいました。何が自分の生活だったかを思い出せないくらいでした。
ロックダウン前の抗議運動を記録しておいてよかったと思いました。映画を作りながら、諦めや絶望もありましたが、作ってよかったと思っています。人々に希望も与えられればと願っています。
― 多くのメディアが政府の息がかかっているとのこと。ムスリムを迫害している側について、多数のメディアはどう報道しているのでしょうか?
監督:テレビは影響力があって、皆が見ています。今、起きている政治状況が、彼らなりの目線でマイノリティの姿を見せていて、権力を守ることに必死です。マジョリティの人たちに、ムスリムやダリットなどマイノリティが悪い影響を与えているようにストーリーを作って流していくのです。裁判所も与党が牛耳って、その時の権力者に有利な状況です。
― 製作資金についてお伺いします。
監督:実際、すべて自分で資金を調達しました。私自身、ムスリマで、ムスリムのコミュニティの映画を撮るのに、誰かから資金を貰うと隙が出来てしまいます。あとから資金源について何か言われてしまいます。自分の物語として作りたかったので、資金を誰かから貰うことはしたくありませんでした。全編、編集も自分で行い、ナレーションもスタジオを借りて自分で行いました。時間をかけて作ったので、テーマと向き合っていろいろと考えることができました。
― 体制側でないメディアはあるのですか?
監督:テレビや新聞は広告収入で成り立っているので、与党の宣伝に使われています。反政府的発言をするジャーナリストが逮捕されています。いかに沈黙させるかに躍起になっています。政府に意見するNTTVというチャンネルがあって、唯一の希望だったのですが、去年、与党支援者が買収してしまい、政府批判が出来なくなって、YouTubeから発信しています。
― 映画の中で意見を発した人が暴力を受けている場面が映っていますが、撮っている時に警察などからの圧力はありませんでしたか?
監督:撮っている時、危険は常にありました。暴力を目の当たりにしましたが、撮っている時、警察の暴力は激しさを増すばかりでした。抗議活動は暴力にさらされながら続いていました。撮影している私にも危険がおよびそうになるので、なるべく目立たないようにしていました。編集している時に感じたのは、パラノイアです。
南アフリカで上映した時には、在南アフリカのインド大使館から妨害を受けました。
山田健太教授: 学生たちはシャイでなかなか質問が出ないのではないかと心配していました。事前に提出してもらっていた学生たちの質問の中に、最後の台所のシーンについて、何を表したかったのかという質問が結構あがっていました。
監督:とてもいい質問。気づいてくださって、ありがとうございます。最後のシーンは、時系列では、最後ではないのですが。
デリーの多くのムスリムが、コロナの時に殺される事件が起こりました。その中で、希望や連帯を感じさせるものを入れたかったのです。未来を予測しているのも、その一つです。
最後の台所の場面で、入れ物に水を注いでいくうちに水が噴き出すというのは、抑圧に我慢できなくなったという比喩です。これ以上無理と、人々が立ち上がったきっかけとなったのが、市民権改正法でした、
山田教授:ムスリマに焦点をあてていますが、インドの女性が抑圧されていることや、モディ政権批判をクリアに表していました。
監督:私自身、ムスリムで女性であることを映画に反映するつもりは、最初はありませんでした。あくまでジャーナリスティックな目線で作ろうと思っていました。編集しているうちに、自分の中に沸き上がった感情が反映されていないと思いました。少し前は、自己紹介する時に、ムスリムの女性とは、あえて言いませんでした。アイデンティティを見つめなおす機会になりました。座り込みしている女性たちから、教えられました。マイノリティとしてのアイデンティティは自信に繋がるものだと。ムスリム女性の私自身も主人公であると変わっていきました。
抗議活動が内包している様々なものは、私自身が一番考えていることです。
山田教授:監督から、学生に質問をしてください。それを今日の学生たちの宿題にします。
監督:皆さんが感じている「怒り」を描写してください。その源も含めて。
メディアで働くということは、自分の直感が重要。「怒り」という入口を通して、自分自身が見えてくるのではないかと思います。自分自身の好奇心にも気が付けるのではないでしょうか。
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講義終了後、30分程して学生さんたちから回収した「宿題」をさっそく読む監督。時折、笑みもこぼれました。今は、スマホをかざすと手書きの日本語も寸時に英語に翻訳されるので、便利な世の中になったものです。
今回の来日中、個別インタビューの時間も設けられたのですが、出遅れて、私が申込みした時にはすでに枠がいっぱい。宣伝のリガードの西晶子さんから、この専修大学での特別講義の取材の案内をいただきました。実は、配給のきろくびとの中山和郎さんが、専修大学で講義の枠を持っていらっしゃって、その中での映画上映と監督の特別講義でした。このような機会を持てる学生さんたちを羨ましく思いました。
受講生は女性の割合が多かったとはいえ、質問はすべて女子学生からでした。頼もしいです。
講義の中で、カシミールに滞在していた時期があると語っていらしたので、『カシミールの秋』や『カシミール 冬の裏側』のアーミル・バシール監督のことを伺ったら、もちろん親交があるとのことでした。
取材:景山咲子
◆スタッフ日記
生田の森 登戸研究所、そして『わたしの聖なるインド』ノウシーン・ハーン監督特別講義 (咲)
https://cinemajournal.seesaa.net/article/520534448.html?1777203766