*藤元明緒監督プロフィール*
1988年大阪府出身。ビジュアルアーツ専門学校大阪 放送・映画学科に入学し、映画制作を学ぶ。卒業後、拠点を東京に移し『僕の帰る場所』ではミャンマー人家族、『海辺の彼女たち』では日本の農漁村で働くベトナム人女性たちにフォーカス。第3弾の本作『LOST LAND/ロストランド』はベネチア国際映画祭オリゾンティ部門で審査員特別賞を日本人で初めて受賞した。
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公式サイト https://www.lostland-movie.com/
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★2026年4月24日(金)より全国順次公開
ー初めにベネチア国際映画祭での3冠おめでとうございます。
海外からお帰りになったばかりなのに、今日はありがとうございました。
シャフィが、映画の最初と最後に、1から10まで数える場面が印象的でした。
数字のいくつかが、ペルシア語と共通していて、さらに、ロヒンギャ語の英語の題にある「Watan」もペルシア語で、祖国、故郷という意味です。ロヒンギャ語のことをこれまで意識したことがなかったのですが、調べてみて、インド・ヨーロッパ語族のインド・イラン語派、インド語群に属する言語と知りました。ロヒンギャ語はベンガル語に近いとのことですが、ベンガル語にペルシア語系の単語が、1万語入っていますので、なるほどと納得しました。
そうですね。今の新しいロヒンギャ語は通じると思います。
―姉弟が「だるまさんころんだ」で遊んでいましたが、ロヒンギャ語ではなんと言っているのでしょう?
あれは韓国語なんです。Netflixシリーズの「イカゲーム」本編でなく、ミーム(SNSなどネットで大流行したパロディや部分的に模倣されて拡散したもの)が世界中で流行っていて「だるまさんころんだ」は部分的にそのままの韓国語で使われています。
ー韓国語だったんですか。
韓国語で「ムクゲの花が咲きました」(무궁화 꽃이 피었습니다ムグンファ コチ ピオッスムニダ)というのと同じですか。
訳したらそうなると思います。
―シャフィ君とソミーラちゃんは今何歳になりましたか?
映画の撮影が一年半くらい前のことなので、6歳と11歳です。
―2人は今、勉強できる環境にありますか?
公的な滞在資格や教育には、アクセスできない状況です。ロヒンギャの子どもたちは、有志の大人たちが開校したスクールで勉強しています。
―映画祭後の反響を見ていると、この映画を作るのはほんとに大変なことだったんだなと思いました。いろんな心配があるかもしれないというのを考えられて、覚悟した上で製作されたのだと思いますが。
それは最初から考えての出演交渉でしたから。ただ僕がわかって理解していることと、彼らがどう理解し考えているかということはまた別問題だと思うので。これが出演してすぐなのか、10年20年後にどう思うのかは、やはりわかりかねます。そこの責任を取るというのは不可能です。
―これがいい記念になるといいですね。
そうですね。せめて。
―二人は完成した映画を観ていますか?どんな感想でしたか?
2回見ています。モニターと映画館での上映と2回。
基本的に僕は出演者に感想を聞かないようにしているんです。
―じゃあ反応はいかがでしたか?
反応は…笑ってました。撮影当時のことを振り返って言っていたのは「シャフィくんが重かった」ということです。お姉ちゃん疲れちゃったと。
―二人の場面が多かったですが、思ったようにいかなかったり、苦労したりはありましたか?
思ったとおりに行かなかったのは、二人がよく笑っちゃうことですね。シリアスなシーンなのに笑顔になってしまうという。船の上とか、泳いで逃げるところとか、アトラクションみたいに楽しかったらしいです。いくら言っても笑っちゃって、編集で切ったり暗くしたりしました。船のシーンをコマ送りすれば笑っているのが見えます。
事故が起きたり、いやがられたりよりは笑ってるほうがいいですけど。
―海と船のシーンは撮影にどのくらいかけられたんでしょう?海の上って怖いですよね。
僕も大丈夫かなと思いました。周りをいろんな船で囲んで、スキューバダイビングの人も20人ほど。海の中にもいました。一番たいへんなのはクラゲです。
刺すクラゲもいますし。船の場面には10日間くらいかかっています。
―10日間。人数も多いですしね。
そうですね。船に乗ったキャストは50人~60人です。
―ほんとはもっとぎゅうぎゅう詰めですよね。難民の船はそんなイメージです。
100人200人とか。(撮影ですから)定員をオーバーしない人数です。周りには4隻くらい。着替えボート、トイレボート、プロダクションボートいろいろ。
山が映りこまない沖合まで毎朝1時間~1時間半くらいかけて出かけて、一回休憩を入れてまた戻る、時間になったら帰る、という感じでした。移動にかかるので、一日で撮れる時間は短いです。
―劇中で歌が出てきます。海の上で男性が歌うのがとても印象的でした。メロディと故郷を思う歌詞が良くて、それも途中でさえぎられて悲しさが増しました。
やっぱりロヒンギャの人々は、文化や言葉とか含めて奪われ続けてきた。それを「歌う」ことも止められる。子どもは最初に「遊ぶ」ということを止められる。この二つを序盤に置くというのは、必要な部分でした。そこから彼らの旅が始まる。
メロディ、フレーズは既存のもので、歌詞はオリジナルです。その場の心情を言葉に乗せて歌っています。子守歌も良かったです。
―今回言葉の面はいかがでしたか?
通訳は英語とロヒンギャ語の二人でした。もう言葉がわからない映画3本目なので慣れましたけどね(笑)。僕は、ロヒンギャ語で「立って」「座って」「振り向いて」とか、あと「静かにして」「ゆっくり」とか・・・簡単な指示の言葉を両手で収まるくらい(笑)。
―10個で足りるんですか!動作でもわかりますものね。
『僕の帰る場所』のカウンくんが、弟の反応を補って余りある勘の良い子でした。今回のソミーラちゃんもそうでは?と思いました。
素晴らしかったですね。カウン君と同じくらい、それ以上に。すごい似てましたね。演技の仕方が。
―監督の見る目がすごい!チョイスがドンピシャです!
それはもうそこに関しては間違ったことがないです!キャスティングだけで持っているようなもの(笑)。素晴らしい人と出逢えるんです。ほんとにありがたいですね。
―それは監督の「引き(寄せ)の強さ」があるんですね。
カタログから選ぶようなことはできないので。カウンくんの時はこの子しかいない、というところから始まったので、撮るまで知らなかったです。
今回は最初から「わかってる」状態で臨めました。
―それも最初にシャフィ君を見つけて、家に行ったらお姉ちゃんがいたという。
はい。弟だけで行くか、二人で行くというのはずっと悩んでいたんです。最初は弟だけの旅、と書いています。コンセプト上は弟が大人に守られていろんなところに行く。
―お姉ちゃんがいるといないではずいぶん違いますよね。
違います。まあ物理的に4歳でジャングルは無理だろうということになりました。
―観客としてはこの二人のうちどちらかがいなくなるんじゃないかと、ハラハラしました。ソミーラちゃんの勘の良さはどんなところで発揮されたんでしょうか?
勘というより、演技に対する真剣さですね。自分の役割をすごいまじめに考えています。こういう素質がある子もあの年齢では少ないです。性格もあります。
自分がどこから撮影されているのか、カメラの位置をすごく良く観ていました。そこは、なんていうか、いい意味でのナルシスト。自分がどう見られているかというのを把握している、そこが勘が良いというところ。
―子どもたちが天才的に良かった! では、大人のほうは?
大人もすごかったですよ。総じて全員すごかった(笑)。
あのジャングルでの3人の青年もよくセリフを覚えて、しっかりと演じてくれました。
―夢を語る人でした!
あの人たちも素晴らしかったですよ。たぶんできるなとは思っていたんです。ミャンマー人って演技上手いんですよ。映画以外の撮影もしてきましたがうまい人が多いです。
―すごく自然ですよね。撮られているとぎこちなくなってしまう人もいるんですよね。
そうなんです。恥ずかしいですし。でもそのふるまいがみなさん素敵で。
―みな自分が出る意義をしっかり感じて出てくださったわけですね。
上映会のとき、自分が出ているのを見て、みなさんどうでしたか?
みんな(映像の)写真撮っていましたね。「出てるぞ~」とか、知り合いがブローカーに怒られているシーンのところはどっかーんと笑いが起きる。そういう感じでした。
―え~(笑)。
英語を喋れる方はほとんどいないんですが、何人かに聞いたら「観ていて辛くなった。でもロヒンギャの名前が出ること、物語を伝えることは嬉しいし、そこに期待している」と。
―責任重大ですね。これから押し出していかなければ。
他の国のロヒンギャとは反応が違いますね、シーンによっては笑いが起きたりしますが、ほかの国にいる人は、日本人のようにシリアスに観ています。
―海外での映画祭のときに観てくれた方々ですか?
映画祭とかフランスでの公開とか。
―その国で暮らしが成り立っているのですか。
暮らしは立っていないですね。そもそも国籍がないので。
―国籍がないまま外国に住めるんですか?
住めますよ。
―結局たどり着いてもその国での居住権がもらえない、
日本だったらもらえます。日本に来るというのは相当至難の業です。90年代くらいだったら、日本に来た人が群馬県とかにいます。今、難民キャンプを出てくるっていうのはかなり難しいです。国籍がないというのが、普通の難民たちとは違う。難民でも国籍があれば、できる手段はあります。
―国籍ってどうしたら取れるのでしょう?
ミャンマーの法律を変えるしかないです。
―外国に行けた人がその国の国籍を取ることはできないんですか?
先進国はできるところがあります。それでも大人数ではない。
―これを聞いていると時間がなくなっちゃうので、映画のことに戻ります。逃避行なので夜の撮影シーンがいくつもありましたが、特別気を遣うことは?
どっちかというと技術的な面です。ライティングとカメラ。
普通、映画となると、照明を当てて「夜を作る」。見える状態の夜を作るんです。
それは基本的に僕はしたくない。映らないっていうのが映画と思っているので。このご時世、暗闇って映画館でしかできないんです。明るい部屋で暗いシーンを映しちゃうと、そう見えない。暗闇の中で音、声だけが聞こえるというのは緊張感が全然違うと思うんです。ライティングには非常に気を使いました。
―それはカメラの北川さんや照明さんたちと話し合われるんですね。
姉弟の衣装が白っぽかったり、オレンジ色だったりは闇に溶けてしまわないためですか?
いや、そういうことではなく、この映画全体として、姉のソミーラの存在を観客の記憶に焼き付けるための仕掛けがあります。その一つ。
―ロヒンギャの方からアドバイスを受けたシーンはありますか?
いろんなディティールがありますけど、記憶しているのは「国境の越え方」です。どう金網を破るのかとか細かいところです。グループはどこに潜んでいるのかとか、そういう部分です。旅のしかたのディティールですね。あと重要だったのは「お祈りの仕方」です。礼拝のタイミングとか。普通は何時と何時など決まった時間ですが、船に乗っている場合、一斉にみんなでやるのだと思っていましたがそうでもない。個人によって違う。
―一緒にやる場合もあるけどわりと個人の自由ですね。
習慣的なものを教えてもらったりしました。
―助け合いの精神などはイスラムから来ているのかなと思います。これまで過激な部分が強調されてきましたけど、自分が辛くても人を助ける精神など。
ロヒンギャの人は特に強いなと取材していて思いました。これまでずっと家族内の結びつきを描いてきたんですが、今回はそうじゃなくて、血縁関係を越えて他人でも躊躇なく、助け合うその連帯性を描きました。
―村が焼けたときにマンゴーの木が残ったというのが、心に残りました。
シャフィくんもおじさんの家にはマンゴーの木があると言っていました。
あれはめちゃくちゃ僕の完全オリジナルです。
―マンゴーの木はシンボルだからグッズの図案になったと思っていました。
木が倒れないっていうのが重要なんです。僕が提案したんですが、満場一致でマンゴーに決まりました。
―大木が出てきますが、あれはマンゴーなんですか?
いや、違います。この映画にマンゴーの木はいっさい出てきません。あれはただの木で、想像でしかマンゴーの木に出逢えない。という構造の映画です。
「わぁ!ビューティフルマンゴー!」なんて言われるんですけど。
―これから映画を観る方へひとことどうぞ。
ロヒンギャは存在も、そう名乗ることさえも故郷では認められていません。映画を観るみなさんの眼差しが彼らを可視化し、心に刻まれていく作品です。劇場でお待ちしています。
―とても余韻の残る映画でした。今日はありがとうございました。
(取材:景山咲子、白石映子)
★シャフィとソミーラが描いたイラストと文字入りのTシャツとトートバッグを、上映会場で販売しています。利益は全額ロヒンギャの子どもたちの支援に充てられます。
詳細は以下公式サイトを。
https://lostland-movie.filmtopics.jp/2026/04/08/0408_2/
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★取材を終えて
まさに取材を終えて、外に出たところで、一服中の藤元監督にもう一度お会いできたので、「川添ビイラルさんが助監督でしたね。監督作『WHOLE』公開の折にインタビューさせていただきました。私と同じ神戸生まれで、映画に我が家の裏山の神社が出てきてびっくりしたんです」と、取材中に話題に出しそびれたことをお伝えしました。「彼が英語の通訳をしてくれて、僕より(主演の)子どもたちにすごく慕われてたんですよ」と、ちょっと嫉妬されてました。「もちろん、すごくお世話になって感謝してます」とも。ビジュアルアーツ専門学校大阪の後輩にあたるそうです。
川添ビイラルさんは、お父さんがインド生まれのパキスタン国籍の方で、お母さんが日本人。そして、イスラーム教徒。ロヒンギャの方たちと同じ宗教ということもあって、撮影現場で、いい橋渡し役だったと察します。(咲)
藤元監督が長編を完成させるたびに取材させていただき、インタビューはこれが3回目です。海外映画祭にたくさん選ばれて取材や挨拶の場数を重ねたからか、まとう空気が違ってきた感じがします。ロヒンギャの人たちのことは、この作品でとても身近になりました。ミャンマーではアンタッチャブルというのがどうしてもピンときません。どこの為政者も最下層を作ることで国民を分断し、不満の矛先を決めているのではないかと思ってしまいます。仏教徒は慈悲深いはずです。キリスト教やイスラム教だって、互いに赦し愛し合いなさいと言っているはず。
時代の都合に教義が歪められることなく、人がみな尊厳を持って生きられるために私たちは何をすればいいのか、二人の姿を通じて考えさせられました。ともかくも一人でも多くの方に届きますように。(白)
=公開記念舞台挨拶情報=
シャフィ&ソミーラのオンラインでの登壇が決定!!
4月25日(土)12:30の回(上映後)ポレポレ東中野
14:15の回(上映後)kino cinéma新宿
あの可愛い二人に画面越しですが会えます!もちろん藤元監督も登壇。
ほかの舞台挨拶情報は公式サイトで。
https://lostland-movie.filmtopics.jp/2026/04/17/0417/
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